脳力をアップする
おいしすぎる方法とは?

 前回は、年齢とともに脳のハードの部分の働きは低下するものの、ソフト面の脳力は使えば使うほどよくすることができる、というお話をしました。その鍵を握るのが、前頭前野にある「ワーキングメモリー」です。

 今回からは、このワーキングメモリーの働きを高める方法についてお話ししましょう。

 まずは食事編です。

 あまりにも簡単で拍子抜けされるかもしれませんが、その方法とは「おいしいものを食べること」です。

 おいしいものを食べると、なぜワーキングメモリーの働きがよくなるのでしょう。それには、ドーパミンを分泌する中脳皮質ドーパミン系(中脳皮質辺縁系)という脳内の刺激伝達経路が関わっています(図1)。

図1 ドーパミンを分泌するしくみ

 「おいしい」ものを食べると、快感や満足感、至福感をもたらしますが、食べたことで脳幹のなかの腹側被蓋野(VTA=ventral tegmental area)と呼ばれる神経細胞が集まっているところが刺激されます。刺激を受けた神経細胞(VTAニューロン)は末端で、神経伝達物質のドーパミンを分泌します。このドーパミンの分泌は、腹側被蓋野から神経細胞でつながっている前頭葉に達し、前頭葉の働きを高めてくれます。そして、前頭前野にあるワーキングメモリーや側座核の働きをよくするのです。

 同時に、ドーパミンは運動をつかさどる運動野に伝わってスピード力や筋力を高め、運動前野にも伝わり運動のスキルを向上させるという効果をもたらします。

 さらに、側座核に達したドーパミンは海馬を刺激し、新しいことを記憶する能力が高まります。

 脳のためには、忙しいからと食事を抜いたり、おいしくないものを適当に食べるということは、できるだけ避けたほうがよいのです。

しっかりおなかを空かせてから
食べることがポイント

 おいしいものを食べて脳の働きがよくなるなんて、食べることが大好きな人にとっては、まさに“おいしい方法”です。ただし、のべつ幕なしにおいしいものを食べていればいいわけではありません。大事なのは、空腹感をしっかり感じてから食べるということ。間食はやめて、3食をきちんととることが基本です。

 というのも、空腹感を感じるときに胃からグレリンというホルモンが出てきます。グレリンは、視床下部に働いてエネルギー代謝活動を盛んにすることがわかっていましたが、近年、中脳皮質ドーパミン系のシステムもよく働かせることがわかってきました。逆に、おなかが空かないのに食べても中脳皮質ドーパミン系のシステムは働きません。脳力アップのためには、「おなかが空いてから食べる」ことが大事というわけです。

 実は、おいしいものを食べる以外でも、ドーパミンを出して脳の働きをよくする方法があります。他人からほめられる、達成感を味わう、お金を受け取るなど、快感や満足感を味わうことです。また、本を読んだり映画をみて感動することも、ドーパミンを分泌させます。そのような経験を頻繁にできるよう努力すれば、さらに脳力をアップさせることができます。

 ただし、日常生活のなかで常に快感や感動を得ることは、なかなか難しいのが現状です。そのため、「おいしいものを食べる」という、いちばん手軽な方法を上手にいかして、脳力を高めるのが最も効率的な方法といえます。

 おいしいものは、自分が「おいしい」と感じるものであれば、なんでも結構です。ただ、ジャンクフードやお菓子など、栄養的に問題があるものは、できるだけ避けたほうが、体にとっては賢明です。

脳力アップに大切な栄養素とは?

 では、脳力をアップさせるための食べ物とはどんなものでしょう。

 脳の分野では、あまり食べ物との関連についての研究が進んでいないのが現状ですが、さんまや鯖などの青魚に含まれる「DHAやEPAが脳の働きを高める」というのは、定説になっています。

 また、最近はコリンが脳に欠かせない栄養素であることがわかってきました。というのも、神経伝達物質のアセチルコリンは、コリンがなければ体内で作り出すことができないためです。

表1 コリンを多く含む食品の例 (USDA Database for the Choline Content of Common Foods 2004より)

 アセチルコリンは記憶力を高めたり、筋肉を動かすために必要で、不足すると力が出ない、体を早く動かせないなどさまざまな障害が現れます。また、アルツハイマー病の人の脳を調べると、アセチルコリンが不足していることが明らかになっています。

 脳のためには、アセチルコリンが不足しないよう、積極的にコリンをとることが必要といえます。

 日本では、まだコリンに関する研究が進んでいないため、1日の必要量というものは決められていないのが現状です。一方で、研究の進んでいるアメリカでは、1日に約500㎎摂取することが推奨されていますから、とりあえずはそれを目安にするとよいでしょう。

 表1は、アメリカの農務省(USDA)が公開しているデータをもとに作成した、コリンを多く含む食品のリストです。これをみると、コリンは卵黄、動物の肝臓、肉、ナッツ類などに多く含まれていることがわかります。

 アルツハイマーの予防のためにも、コリンを含む食品が不足しないよう、毎日の食生活のなかに、上手に取り入れてください。

アルコールは適量であれば
脳の働きをアップ

 最近は、さまざまな種類のサプリメントも販売されていますが、「脳のためによい」と実証されたものはひとつもありません。とはいえ、サプリメントは疫学的な調査を行ったうえで、「健康によい」ということで許可されているものです。いろいろ飲んでみて、自分に合っていると思えば続ければよいと思います。

 アルコールについては、適量であれば胃液の分泌を高めて食欲を促進し、楽しい雰囲気で飲めば腹側被蓋野を刺激して脳の働きをよくします。動物実験では、アルコールを多量に飲むと脳細胞が壊れていくという結果もありますが、われわれが二日酔いになるくらいの量では、脳の細胞が死ぬまでには至りません。その前に、肝機能に悪影響を及ぼしますのでそちらのほうが問題です。

 適量は、食事指導でよくいわれている量と同じで、缶ビールなら1缶(500ml)、日本酒なら1合、ワインならグラス2杯程度です。脳のためにも、適量を守って楽しく飲むことをおすすめします。

「料理上手は頭がいい」は本当だった!

 おいしいものを食べるとき、ぜひ挑戦していただきたいのは、料理です。料理は、多くの工程を頭のなかで段取りよく組み立てながら、いくつものメニューを同時進行で進めていくという知的な作業です。そのため、料理をするときは、前頭前野がよく働き、脳を活性化させるのです。

 研究の結果から、料理をすると、前頭前野のとくに10野というところがよく働くということがわかっています。知能指数の高い人の脳を調べると、この10野と、46野というところが大きくなっています。おそらく神経細胞が作られて、回路を作るシナプスも増えていると思われます。

 この2つは、創造力をつかさどる場所です。46野は、前述したワーキングメモリーを働かせ、考えたり決断をくだす場所でもあります(脳の領域については、前回をご参照ください)。

 男性は社会に出て働く人が多く、46野が発達する傾向が強く、女性は家庭で家事や料理など段取りを考える作業が多いため、10野が発達する傾向があります。「料理上手の女性は頭がいい」といわれますが、それは、最近の脳の研究からも裏付けられています。

 仕事中心の生活の人はあまり10野を使いませんから、時間があるときは料理をするとよいでしょう。料理をすることは、認知症の予防にも使えます。これまで料理をやったことがない人も、脳全体の活性化のために、ぜひ始めてみてはいかがでしょう。

 自分で料理をして、おいしいものを食べていれば、脳力は間違いなく磨かれるのです。

【連載】40代からの脳力の磨き方
第1回:「頭は使えばよくなる」は本当だった!
第3回:脳は適度な運動でまだまだ活性化できる
第4回:「脳に良い習慣」で人生を活性化しよう!

illustration:秋田綾子

肥満は脳の働きを阻害する おいしいものを食べることで気をつけなければならないのは、肥満です。というのも、肥満は体にとってよくないだけでなく、脳にも悪影響を及ぼすためです。実際、BMIが35くらいの肥満度の高い人の脳を調べると、前頭前野のなかでも創造力や決断力をつかさどる46野と運動に関連する運動野などが小さい傾向があります。これは、肥満により体を動かさなくなるためと思われます。おいしいものを食べても太らないためには、食べることに頭を働かせるように常に心がけることです。自分の必要摂取エネルギーを踏まえて、何をどれくらい食べればよいか、学習しながら食べるようにしましょう。また、ただ漫然と食べるのではなく、食べものの匂いをかいだり、食材を確認しながら食べるだけでも効果があります。一方で、適度な運動を習慣づけることも大切です。運動が脳に及ぼす影響については、次回で詳しくお話します。

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