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満蒙開拓、夢はるかなり――加藤完治と東宮鐵男(とうみやかねお)(下)
牧 久 著

目次 立ち読み

 

「共に往かん アムールの果て 韃靼の海」(東宮鐵男)。未墾の原野の開拓に情熱を傾けた農本主義教育者・加藤完治。「満州」に日本人の開拓村建設の夢を描いた軍人・東宮鐵男。関東軍作戦参謀・石原莞爾を介して二人の人生がクロスする――。「満蒙開拓の父母」と称される二人の生涯を通して、開拓の理想と現実の乖離、その悲惨な結末を描きつくしたノンフィクション。『特務機関長 許斐氏利』『「安南王国」の夢』『不屈の春雷』と昭和史の闇に光を当ててきた著者渾身の力作。

<書籍データ>
◇四六判上製 328ページ
◇定価:本体1,600円+税
◇2015年7月21日発売
◇ISBN: 978-4-86310-148-7

<著者プロフィール>
牧 久(まき・ひさし)
ジャーナリスト。1941年大分県生れ。早稲田大学第一政治経済学部卒業。日経新聞副社長、テレビ大阪会長を経て現在、日本経済新聞社客員、日本交通協会会員。著書に『サイゴンの火焰樹――もうひとつのベトナム戦争』『特務機関長 許斐氏利――風淅瀝として流水寒し』『「安南王国」の夢――ベトナム独立を支援した日本人』『不屈の春雷――十河信二とその時代』(各小社刊)がある。

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<立ち読み>

 

本書を書く動機については序章で述べたように、前著『不屈の春雷――十河信二とその時代』がきっかけとなっている。満鉄理事だった十河信二(戦後、国鉄総裁)は、石原莞爾らが起こした「満州事変」を支持し、満鉄経済調査会委員長として「五族協和、王道楽土」の「満州国」建設の計画立案を進めた。そんな十河と、日本国民高等学校長で農学者の加藤完治との接点はどのようにして生まれたのか。二人は、石原も関与した「東条首相暗殺未遂計画」にも名を連ねている。加藤は戦後、日本の青少年を“洗脳”して、中国侵略の先兵として満州に送り込んだと強い批判を浴びた。加藤の思いは何だったのか。その実像に迫ってみたいと思った。
取材の過程で加藤と共に「満蒙開拓の父」と呼ばれていたもう一人の人物の存在を知る。昭和十二年末、日本軍の杭州上陸作戦で連隊長として先頭を切って突撃し、戦死した東宮鐵男(当時中佐)という男である。東宮は戦後、張作霖爆殺事件の実行犯であることが明らかになり、テロリストとして全面的に否定された。東宮鐵男とはいったい何者だったのか。彼の軍人としての人生の軌跡を全面的に賛美するつもりはないが、生まれ故郷の赤城山麓で育まれた純粋性と義侠心に満ちたこの男の実像は、不思議な魅力に溢れていた。
当時、ソ連と国境を接する満州北部には、広大な未墾の原野が広がっていた。この地に「農業を生きがい」とする日本の純粋な若者を送り込み、その原野を豊かな農業地帯に変え、石原らの描く「五族協和」の理想国作りを推進しようとしたのが、石原に心酔する軍人、東宮鐵男であり、農本主義の教育者、加藤完治だったのである。この二人を結びつけ、彼らの「満蒙開拓の夢」の最大の支援者となったのが石原莞爾だった。
(中略)
大正時代から昭和期前半にかけて日本の農村や農民は、極端な農村不況と強力な地主制度のもとで喘いでいた。農家の二、三男には耕す土地さえない。生きていくために婦女子の身売りも相次いだ。農民を苦境から救済し、いかにして生命の源である「食」を守り、育てていくか。石原や東宮ら軍人と、加藤や石黒忠篤ら「農政グループ」は、この一点で強く連帯したのである。しかし、いつの時代でも「純粋な人はその純粋さに正比例して常に不遇である」(東宮七男)。「満州国」は変質し、戦争の拡大に伴って、開拓のために渡満した青少年や開拓団も「根こそぎ動員」され、武器を持たされる。そしてソ連軍の侵攻によって、彼らの夢は悲劇に終わった。
加藤完治はどんな思いで、青少年を満州に送り出し、また東宮鐵男はどんな思いで、彼らを受け入れようとしたのか、彼らが生きた時代を、残された資料で出来るだけ正確に描こうと思った。無謀な試みだったと思うが、その一端をくみ取ってもらえれば、これに過ぎる喜びはない。「満蒙開拓青少年義勇軍」は、“洗脳”され、銃をかついで、中国侵略のために海を渡った「少年十字軍」ではない。ひたむきに純粋に、満州開墾に打ち込もうとしたのである。彼らが開墾した北満の地は、今、中国の穀倉地帯として実り豊かな大地となっている。悲劇の責任は、戦争を無限に拡大していった政府や軍部にあっても、満州開拓に夢を託した青少年たちに罪はない。戦後七〇年。八万人の犠牲者の魂に、心から哀悼の意を表したい。


 




<目次>

第7章 土龍山事件と饒河少年隊
第8章 国策となった「満州開拓移民」
第9章 満蒙開拓青少年義勇軍
第10章 変質する「満州国」と満州移民
第11章 関東軍の南方転用と根こそぎ動員
第12章 満蒙開拓団八万人の悲劇
第13章 加藤完治の戦後と新たな開拓
終  章 二〇一四年夏、満州開拓の足跡を辿って



 


 


 

 

 

 

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