6月中旬、ロシアのシベリア地域に1週間強滞在してきた。さて、位置関係をイメージできるだろうか。シベリアという名は誰でも知っているが、世界地図で指させと言われたら案外難しい。正解は、横長なロシアの真ん中あたり一帯だ。簡単な地図だとこの付近は空白になっていて、とても街があるようには思えないかもしれない。ちなみに、日本海沿岸の港町・ウラジオストク市などがある地域は「極東」と呼ばれていて、シベリアから見ると2000~4000キロ離れた遠隔地だ。日本ではシベリアと極東はしばしば混同されるが、住民の意識としても経済圏としても、別の地域である。
筆者が訪れたのは、「シベリアの首都」とも言われる中心都市ノボシビルスク市だ。この名前は「新しいシベリアの街」を意味する。少し長いので「ノボシ」と略されることも多い。さぞ何もない質素な街なのだろうと想像するならそれは間違いだ。人口は160万人強で日本の神戸や福岡と同レベル。ロシア国内では首都モスクワ、サンクトペテルブルクに次ぐ3位の人口規模である。市中心部には新しい高層ビル・マンションが並び、大規模なショッピングセンターは平日も賑わっている。マクドナルドやKFCなどのファストフードチェーンが進出しているのは当然で、北欧家具のIKEAも大人気だ。マリオット、ヒルトンなどの外資系ホテルもある。
さらに言えば、ノボシビルスク市がシベリア唯一の、突出した大都市というわけではない。周辺にも人口100万人前後の都市が複数あり、ロシアの行政区割りでいう「シベリア管区」全体では約2000万人が暮らしている。これは極東の3倍強だ。昨今「ロシアのアジアシフト」という文脈でウラジオ、サハリンなど極東がわずかずつでも認知度を高めているのはよいことだが、このエリアは看板都市のウラジオでも人口60万人程度で、地元ビジネス界もまだまだ小規模という現実がある。ロシア国内でも小規模・未発達と見られている極東ばかりが繰り返し日本メディアに登場することで、ロシアの地方が一様に小規模であるかのような誤解が生じているのではないか。これが筆者の危惧するところである。
本記事で紹介するロシア第3の都市ノボシビルスクの大きな特徴は、学術・技術レベルの高さを背景にハイテク企業が多く存在すること、また、ロシアの長年の課題であるものづくりに挑む企業群があることだ。経済統計はさておき、滞在中に出会ったユニークな企業について記すことで、雰囲気を感じてもらえるのではないかと考えている。
まずはITだ。