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2010年8月20日

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リーマンショックで休養十分のヘッジファンドが蠢き始めた。
春先、欧州諸国の国債とユーロで肩ならしを済ませ、次は米国債へ。
その動きに、FRBのバーナンキ議長がすばやく呼応した。
米景気への弱気発言は、ファンドに米国債買い・ドル売りを勧めるシグナル。
ファンドと米国の共闘で、円高ドル安が加速する。日本政府の無策のツケは……。

 それは映画のスローモーションを見ているようだった。7月30日に発表された4-6月期の米国の実質国内総生産(GDP)の成長率が冴えなかったことを理由に、円買い・ドル売りが進んだ場面のことだ。ニューヨーク市場で円は1ドル=85円台後半と、昨年11月以来の高値を付けた。1995年4月に付けた79円75銭も指呼の間だ。

 日本の景気の実感からみて、にわかには信じがたい円相場の水準である。日本企業が2010年度初めに想定していた円相場は1ドル=90円台の前半。にもかかわらず、ここまで円高が進んだのは何故か。原動力はファンドなど外国勢による円買いだ。といっても、日本株を買っているのではない。

 いつでも逃げられるように、短期債を買って回転させているのだ。対円投資はマクロ経済政策の読みに裏付けられている。が、その絵解きをする前に、ファンド勢が今年に入ってどんな作戦で儲けたかを振り返っておこう。

南欧を襲うファンド勢

 最初に狙われたのは、南欧諸国の国債だった。ギリシャを筆頭に財政赤字の深刻化や経常赤字の拡大など悪材料には事欠かない。スペインのように住宅バブルの崩壊に直撃されている国もある。これらの国の国債が売りたたかれ、信用危機が演出されていった。南欧にカネを貸しているドイツやフランスの銀行は焦げ付きに見舞われるというストーリーが、人口に膾炙した。春先以降、ファンド勢が唱えたのはユーロ解体論である。

 ギリシャは緊縮財政に耐え切れず、ユーロを離脱する。いや、南欧の尻拭いを嫌うドイツの方が先にユーロから離脱する。そんな解説が実しやかに語られ、ユーロは売り込まれていった。注目すべきは、南欧諸国の国債売りとユーロ売りが加速するなかで、国や銀行が破綻した場合に保険料が入るクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)という金融派生商品(デリバティブ)の取引が膨らんでいたことだ。

 ファンド勢はまずCDSをこまめに買い建てる。一方で、国債の先物市場などで売りを仕掛ける。その最中に、欧州の経済と金融に関して、思い切り悲観的な材料を流し、市場の弱気ムードを誘う。かくして、国債に対し売りが売りを呼んだところで、反対取引に出て利益を確定する。こう言っては何だが、火災保険に入って放火するような振舞いを繰り返して来たのである。

 ドイツのメルケル首相がCDS取引に腹を立てたのは当然である。債券の現物を持ってもいないのに、CDSだけを買うような取引の禁止に打って出たのだ。欧州の金融危機は募っていたのだから、危機のシグナルであるCDS取引を封じるような措置は賢明でない。そんな批判は百も承知だが、春先以降に強まった欧州の金融動乱を、純然たる市場の動きとばかりは言っていられない。この辺りが欧州の本音だろう。当初はメルケル首相の措置に顔をしかめていたサルコジ仏大統領も歩調を合わせた。

⇒次ページ 弱気を装うFRB議長

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