チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年9月1日

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 去る8月26日から始まった北朝鮮・金正日総書記の中国訪問は、世界中の注目の的となった。外国にめったに足を運ばない金総書記は、今年5月の北京訪問に続いて、今年に入り2度目の訪中を断行したというのがあまりにも異例なことだからである。

金総書記訪中の狙い

 この電撃訪中の理由について、海外のマスコミや専門家がさまざまな分析を行っている。大方の見方は、大水害などの発生で一層深刻な状況となった自国の経済の立て直しのため、中国側にさらなる経済援助を求めたいこと、そして9月に開催予定の朝鮮労働党大会に向け金総書記の後継者擁立問題で中国からの支持を取りつけたいこと、という2点が金総書記訪中の最大の目的であろうというものだ。

 このような見方はけっして外れてはないが、今回の訪中実現の全体像がそれで語り尽くされたとはとても言えない。第一、上述の2つの「訪中理由」は、あくまでも金総書記にとっての訪中理由であって、中国側が彼の訪中を積極的に受け入れたことの理由ではない。中国国内でも水害などの大災害が相次いだこの時期に、中国側が金総書記の訪問を快く歓迎した理由は一体何であろうか。また、多忙な胡錦濤国家主席がわざわざ地方都市の長春市にまで足を運んできて金総書記との首脳会談に応じた理由は一体何であろうか。それこそが問題なのである。

中朝の「3つの仕事」

 中国側がこの首脳会談を通じて北朝鮮側に求めたいことは、会談においての胡錦濤主席の発言によって明確にされている。8月31日付の人民日報のトップ記事が報じたところによると、胡主席は金総書記に対して、「今後において双方が次の3つの仕事に取り込むべきだ」と提案したというが、胡主席が挙げた「3つの仕事」とはすなわち、

①中朝上層部の往来・交流をよりいっそう緊密にすること
②経済・貿易の協力と交流をよりいっそう推進すること
③国際情勢に対処するための「戦略的な意思疎通」をよりいっそう強化すること

である。

 この提案のうち、①と②は、今までの中朝首脳会談の中ではいつも語られているような決まり文句であるので、とくに興味がわくほどの新味もない。ここで注目すべきなのはむしろ、③の「戦略的な意思疎通の強化」である。

 上述の人民日報記事によれば、胡主席はこの点に関して金総書記を相手に次のように語ったという。

 「国際情勢と地域情勢は深刻かつ複雑な変化を見せている。中朝両国は今後、重大な問題については即時の深い意思疎通を行い、共同して東北アジア地域の平和と安定を維持していくことが至極重要である」

「戦略的な意思疎通」が意味すること

 胡主席のこの発言からは、彼が提案している中朝の「戦略的な意思疎通」はそもそも、「国際情勢と地域情勢の変化」に対処するための国際戦略レベルのものであるとはよく分かる。しかも、彼が「東北アジア地域の平和と安定」としての表現で具体的な地域名も挙げているから、胡主席の念頭にあるのは、まさに朝鮮半島周辺を巡る「国際情勢と地域情勢の変化」であることが明らかなのである。

 それなら、この中朝首脳会談が行われている今の時点、朝鮮半島周辺でどのような「深刻かつ複雑な」情勢の変化が起きたのかといえば、それは言うまでもなく、今年の3月に韓国海軍の哨戒艦「天安」が爆発し沈没する事件が発生して以来、緊張感が高まってきた米韓と北朝鮮・中国との対立である。

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