前向きに読み解く経済の裏側

2017年8月21日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

貸家建設は絶好調だが「合成の誤謬」では?

 貸家建設が、ますます盛り上がっているようです。建設会社等から「相続税対策に、貸家建設はいかがですか?」という売り込みが活発なようですが、今ひとつの要因として銀行の融資姿勢が積極的なことが挙げられるようです。

(Brent Oesman/iStock)

 しかし、これから人口が減少していくことが明らかな国で、大量の貸家が建設されて大丈夫なのでしょうか? 貸家の需要は、人口よりも若者人口の影響を受けます。貸家に新たに入居するのは、大学1年生、新入社員、新婚が主だからです。そうなると、ますます少子化、晩婚化・生涯独身比率上昇などが気になります。

 このまま貸家の建設ラッシュが続くと、空き家率が上昇していきます。そうなると、家賃水準も競争で下がって行きます。大家にとってみれば、ライバルよりも少し安い家賃で借家人を集めたほうが得ですから、ライバルよりも少し安い家賃を設定しますが、ライバルも同じことを考えますから、値下げ競争の泥沼にはまる可能性が高いでしょう。巨大牛丼チェーンどうしの値下げ競争でさえも、熾烈なものとなりかねないのですから、個人経営が主である貸家市場においては、「そろそろ手打ちをしませんか?」といったことにはならないでしょう。

 「そんな安値では採算割れだから、貸さない」という選択肢はありません。既に貸家を建ててしまった以上、建設費は「サンクコスト」であって、泣いても笑っても返って来ません。それならば、どんなに安い家賃でも貸して、少しでも収入を得た方がマシです。そこで、お互いが最後まで降りずに値下げ競争を続けることになりかねないのです。その結果は、空き家率の上昇と家賃の低下のダブルパンチとなるでしょう。すべての大家にとって。

 建設会社などが「入居保障」をしている例もあるようですが、その場合でも「周辺の家賃相場から妥当と思われる家賃水準で満室を維持した場合の収入」が保障されるのであれば、苦しいことには変わりありません。

 「合成の誤謬」という言葉があります。各自が正しいことをすると、全員がヒドい目に遭うという場合のことです。劇場火災の時、各自にとって正しい行動は、非常口に向かって走ることですが、全員が同じことをすると、悲惨なことが起こります。それと同様に、各自にとって貸家建設は「低金利を活用した相続税対策」という「正しい行動」かもしれませんが、皆が同じことをすると皆がヒドい目に遭う、ということかもしれません。

バブルと呼べるかも

 現在の貸家建設ブームは、バブルと呼んで良いかもしれません。バブルというと、「土地や株の値段が急激に値上がりして、正しい値段(ファンダメンタルズを反映した価格)から大きく上方に乖離すること」といったイメージを持つ人が多いのでしょうが、今回の貸家建設のように「正しい値段が下がって行くのに投資が止まらずに増え続け、結果として一層正しい値段を押し下げる」というのも、バブルと呼んで良いような気がします。

 バブルには2種類あります。1つは「誰が見ても高値だが、明日は今日より値上がりするだろうから、今日買って明日売ろう」と人々が考えている場合です。経済学で「合理的バブル」と呼ばれているものです。昔は、こうしたバブルも多かったのですが、最近ではこうしたバブルは政府が潰すので、あまり拡大する事はありません。

 今ひとつは、誰もバブルだと確信できない間に拡大していくバブルです。たとえば平成バブルは「日本経済は世界一だ。21世紀は日本の時代だ」と人々が信じたため、「世界一の国の土地や株が高いのは当然だ。今までが安すぎたのだ」ということで、人々がバブルだと思わずにいたのです。筆者はこれを「惚れ込み型バブル」と呼んでいます。

 もしかすると、今回の貸家ブームは、これかもしれません。「貸家建設は相続税対策として最強だ。皆が貸家を建てているのは、皆もそう思っているからだ。やはり自分の考えは間違えていないのだ」と考える人が多いとすれば、それは極めて危険なことです。筆者は、絶対に貸家建設に「惚れ込む」ことはないとおもいますが(笑)。

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