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2010年10月6日

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中西輝政 (なかにし・てるまさ)

京都大学教授

1947年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。ケンブリッジ大学大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授を経て、現職。専攻は国際政治学、国際関係史、文明史。近著に『日本の悲劇 怨念の政治家小沢一郎論』(PHP)がある。

今回の日本の尖閣問題への対応は、海外メディアから「フィリピンやインドネシア以下の抵抗力」と報じられた。そこから外交・安全保障政策を立て直し、実効支配に踏み出すであろう中国に対抗するのは、容易ではない。裏づけのない強硬論で過熱し、そしてすぐに冷めてしまうようでは、事態は悪化するばかりだ。
尖閣問題で、日本は3つの大きなものを喪失したと指摘する、国際政治学者の中西輝政氏に緊急インタビューした。

尖閣問題は中国の戦略の
とっかかりにすぎない

 今回の一連の尖閣諸島をめぐる出来事は、中国が尖閣諸島の実効支配を進める決定的な布石となってしまいました。

 肝に銘じておくべきは、今回の出来事は、中国の壮大な戦略の一里塚であったということです。中国は、これまで尖閣諸島については領有権は主張してきましたが、実効支配まではしなかった。しかし、今回、日本側の船長釈放などを受けて、中国は近々のうちに実効支配に踏み出すだろうと思います。

 中国側の強硬な姿勢を見て、日本の専門家やマスコミは、中国政府は国内の「反日世論」を恐れていて、これをなだめるためにやむなく日本に強硬な姿勢を見せた、との分析・評価をしていますが、私から見れば、これはミスリードです。今回は、中国政府内部で尖閣諸島の実効支配が機関決定されていた可能性があり、漁船衝突を「隠れ蓑」として尖閣諸島の領有化に本格的に動き出したと考えられます(『産経新聞』9月17日付のワシントン電は、米政府も同じ見方をしていることを伝えている)。

 国際問題とは、つねに不連続的に展開するものです。ある出来事が起こるまではその問題は水面下に潜んでいますが、何かが起きた瞬間に、一挙にすべての状況が変わってしまう。今回は、まさにそうした悪い転機となってしまい、尖閣諸島をめぐる日中の従来の立場が、日本の劇的な譲歩によって完全に逆転してしまいました。これは「日中関係の悪化」などという一時的な外交レベルの問題ではなく、領土という国家の本質に関わる問題で、日中間の立場の逆転が起こった不可逆的な出来事となりました。

 私は、今回日本は3つの大きなものを喪失したと考えています。

尖閣問題で日本が喪失したものとは?

(1)尖閣諸島という領土・領海・経済水域
  中国に帰還した船長が、「日本(の取り締まり)は怖くない」「また釣魚島に行き、漁を行う」と語ったニュースをご覧になったかと思います。この船長の発言とそれを当局が報道させたという事実が中国側の意図を明瞭に示しています。中国共産党は尖閣諸島を含む東シナ海の支配を国家の「核心的利益」と規定した(『サウス・チャイナ・モーニングポスト』10月2日付)ことで、今回、中国が国際法規や世界の常識を意図的に無視して行動していた理由がよくわかります。私の得た情報でも、尖閣問題は今回、「核心的利益」と位置づけられていたようで、中国は近いうちに必ず島の実効支配を達成しようと動いてくるでしょう。今回の事件以後もその方向を示す動きが続いており、24日以後も中国の漁業監視船2隻が尖閣諸島付近を航行し日本側を威圧しているのが確認されています。

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