WEDGE REPORT

2010年11月8日

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渡邊頼純 (わたなべ・よりずみ)

慶應義塾大学総合政策学部教授

上智大学文学部哲学科卒業、同大学院国際関係論専攻博士課程修了、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部、GATT事務局、外務省経済局参事官などを経て現職。

今月13~14日に横浜で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議。この場で議題となる環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加検討を菅首相が表明すると、農業セクターへの影響を懸念した反対の声が相次ぎ、国内は混乱を極めている。1年以上前から日本のTPP入りを支持し、かつて日本・メキシコ経済連携協定(EPA)交渉にも深く関わった、慶應義塾大学総合政策学部・渡邊頼純教授に、このTPP参加の是非を巡る議論のポイントとなる、農業と自由化についてインタビューした。

――まず、TPPへの参加について、なぜ農業が問題と見なされるのでしょうか。

渡邊頼純教授(以下渡邊教授): TPPは「質の高いFTA」を目指しており、TPPの基礎となったP4と呼ばれるシンガポール、ニュージーランド、ブルネイ、チリでは100%に近い関税撤廃率を誇っています。TPPでは、貿易の自由化について原則例外を設けないとしていますので、今まで日本が二国間交渉などでやってきたような、交渉全体で互いの利益のバランスをとり、農産品の関税を撤廃しないで済ませるといった交渉のテクニックが効かない可能性があります。これが、農業を高関税で保護したい国内の勢力にとって脅威となっているのです。

 TPP交渉には現在9カ国が参加しており、その中で日本がEPA交渉に至っていないのは、アメリカとニュージーランドです。両国は農産品において高い国際競争力をもっており、同様に日本の農業への影響を懸念する人たちの反対によって、今まで交渉のテーブルにつけませんでしたが、TPPに参加すれば、当然この2国とも高いレベルの関税撤廃率で貿易自由化が実現しますので、農業保護勢力は嫌がっているわけです。

――農水省は、TPPに参加すると「農業生産額が4兆円に半減」「実質GDP8兆円減」「340万人雇用減」「自給率が40%から14%へ下落」などといった試算を出しています。TPPに参加すると、本当に日本の農業は壊滅する危険性があるのでしょうか。

渡邊教授:私にはそうは思えません。例えば、オーストラリアの年間のコメの生産量は約2万トンで、消費量は約25万トンです。その差はもちろん他国から輸入しているわけですが、日本のコメの生産量は年間約850万トンで、余剰もある。コメは保管するにもコストがかかりますから、これを輸出しない手立てはありません。

 オーストラリアではここ数年日本食ブームが起きています。他にも、APECの中ではロシアなども日本食ブームですね。あと忘れてはならないのが、巨大マーケット・中国です。中国のコメは日本食には不向きなので、北京・上海・大連・青島・天津あたりを中心とした需要増大の可能性は大いにあるでしょう。

 このように、「守りの農業」から「攻めの農業」への転換が必要です。特にコメについては、日本全国各地で生産していることもあり、農産品の中でも人々の関心が高い、センシティブなものであることは理解できます。だからこそ、戦略的な生産・販売が必要なのです。

 また、農業を頑なに保護しようとする人々は、「コメは日本の文化」ということをよく口にします。でも、世界には短粒種・長粒種など、いろいろな種類があって、料理の用途によって合う・合わないがあります。例えば、日本のカレー屋さんで日本米を使う場合は、わざと固めに炊いて、長粒種の食感を出すように工夫をしています。それはそれで良いのですが、自由化すれば、消費者がカレーの辛さを選ぶのと同じ感覚で、コメを選ぶような楽しみ方もありえますね。このような、「多様性を楽しむ」「選択肢が増える」ということも貿易の自由化の1つのメリットと言えるでしょう。

――畜産業関係者もTPP反対派の1つと思われますが、畜産業についてはどのような影響が考えられるでしょうか。

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