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2010年12月4日

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神保 謙 (じんぼ・けん)

慶應義塾大学総合政策学部准教授

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了。南洋工科大学ラジャラトナム国際研究院客員研究員などを歴任。

 11月23日に起きた北朝鮮による韓国・延坪島砲撃。3月の韓国の哨戒艦「天安」沈没事件に続き、北朝鮮は軍事的挑発を続けている。北朝鮮は「戦略的忍耐」を継続する米国に果敢に挑発を続け、対米交渉の契機を探ろうとしているようにみえる。
しかし北朝鮮の挑発は奏功していない。結果として日米韓は結束を強め、中国の面子を失わせてしまった。そればかりか、軍事的挑発が計算ミスを生みやすい危険な状況を生み出していると、慶應義塾大学神保謙准教授は指摘する。

 11月23日に起きた延坪島砲撃は、北東アジアの安全保障に北朝鮮が及ぼすリスクを改めて知らしめる出来事となりました。

 現在の北朝鮮は、2009年に行ったデノミ(通貨切り下げ)が経済に深刻な影響を及ぼし、また経済制裁の影響で対外貿易も減少した結果、09~10年と連続してマイナス成長となる見通しです。また、9月の朝鮮労働党代表者会と党中央委員会総会で金正日から金正恩への権力継承の路線が敷かれたものの、軍部や朝鮮労働党を含めた次世代の政治体制の権力の所在は未だ不明確です。

 今回の砲撃事件がこうした不安定な時期の一部勢力の暴走だとする見方もありますが、北朝鮮の挑発行動の様式としてはかなり一貫しています。北朝鮮は自らの体制を継続させるためには、安全保障と経済建設を両立させなければなりません。安全保障のためには、自らの軍事力の近代化によって他国からの介入を防ぎつつ、超大国である米国からの安全の保証を求めるというパターンを繰り返してきました。自らが問題をつくりだし、米国に問題解決の行動を誘発させ、その交渉過程のなかで安全の保証と経済支援をパッケージングするという方式です。そして北朝鮮にとって重要なのは、こうした軍事的挑発が①米国を振り向かせるに十分な深刻性を持ち、②だからといって全面的な軍事エスカレーションを招かないレベルに留まるもの、ということになります。

 今日の北朝鮮をめぐる情勢で問題だと思うのは、上記の軍事的挑発の内容がその深刻度を増しているにもかかわらず、関係国が具体的かつ有効な措置をとれないことにあります。なぜそうなっているかを理解するためには、すこし問題を構造的に考える必要があります。

米国「戦略的忍耐」に対する軍事的挑発

 北朝鮮が軍事的挑発のレベルを上げてきている理由は、先ほどの構図に従えば①米国がなかなか振り向かない、いわゆる「戦略的忍耐」(strategic patience)を強めていること、そして②大規模な紛争への軍事エスカレーションを想定することがますます難しくなっていることが挙げられます。

 北朝鮮はかねてから、1953年の朝鮮戦争の休戦協定を恒久的な平和保障協定に転換させていくことを熱望してきました。しかしその前提となるのは、第4回六者協議で合意された共同声明(2005年9月)の履行、つまり北朝鮮の全ての核兵器と核開発計画の放棄です。しかし北朝鮮はその後、2度の核実験を行ったばかりか、ロスアラモス研究所のヘッカー元所長にウラン濃縮技術も進展していることを見せつけました。北朝鮮は六者協議の共同声明を反故にしたのみならず、自らの核兵器の能力を誇示することによって、核保有国であることを前提とした協議をちらつかせています。こうした共同声明を前提としない協議に米国が応じることは困難です。ましてや、北朝鮮の度々の軍事的な挑発に応じて協議が開催されることになれば、ブッシュ政権後期の国務省がとったような融和政策にひきずりこまれかねません。したがって、米国としては挑発行動にじっくり堪えながら、原則を変更せず、外交が再開できる環境を整えるというスタンスだったわけです。

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