中国はいま某国で

2010年12月13日

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谷口智彦 (たにぐち・ともひこ)

慶應義塾大学大学院SDM研究科特別招聘教授

明治大学国際日本学部客員教授。2008年7月まで3年間外務省で外務副報道官。元日経ビジネス記者、編集委員、ロンドン外国プレス協会会長。著書に『同盟が消える日』(編訳、ウェッジ)など。(2013年1月末日現在)

 2008年、アイスランドの資金繰りが破綻し一時同国が孤立無援となったとき、中国は支援を申し出た。

 結果が去る6月9日、両国間通貨スワップ協定となって結実した。向こう3年、双方中央銀行が用意し合うことにしたのは、アイスランド側が660億クローナ(約5億1100万米ドル)、中国側がそれと同額の人民元。

 09年の両国貿易額は双方向で330億クローナだったから、2年分の貿易金額に相当する計算である。

 通貨スワップとは普通、協定相手が外貨資金繰りに苦しむ万一の場合に備え、資金の融通枠を事前に決め、カネを積んでおくことをいう。ただしアイスランドが中国と結んだ協定は、事実上の決済同盟でもあるらしい。

 アイスランド企業が中国から物を買い代金を払わなくてはならない場合、その企業はアイスランド中央銀行に自国通貨のクローナで払い込む。

 アイスランド中央銀行は両国間の売り掛け買い掛けを一定期限で相殺し、差額分を中国から貰うか、中国に払うかするが、それは両国中央銀行に各々プールしたスワップ用口座の増減で処理する仕組みだ。中国から見ても同じ。こういう仕組みが決済同盟である。

狙いのひとつはドル離れ

 これで両国貿易はドル離れを起こす。ドルの需要が減るので、アイスランドは外貨資金繰りをその分悩まなくてよくなる。中国はこの方式をベラルーシなどと設けてきたが、西欧先進民主主義国の一角を初めて取り込んだ。

 08年当時、アイスランドは米国から肘鉄をくらった。困難の極みにあった同年秋、米国中央銀行はノルディック諸国各国中央銀行と通貨スワップ協定を結び、支援の姿勢を打ち出したのに、アイスランドだけは仲間に入れなかった。まさにその頃、北京はレイキャビク(アイスランド首都)にスワップ協定を持ちかけ、国際通貨基金の支援が得られるよう汗もかいてやったらしい。

 今回の協定は、中国共産党中央政治局常務委員序列第8位の賀国強氏がアイスランドを訪れた折、同行した中国人民銀行の胡暁煉副総裁(女性)とアイスランド中央銀行総裁マル・グドムンドソン氏との間で結ばれた。

 グドムンドソン総裁は報道機関の問いに答え、協定は「ある意味、象徴的な存在」であり、「今後の両国協力深化に先鞭をつけるもの」だと述べた。

 中国の狙いは表向き、アイスランドの地熱発電技術を獲得することにある。アイスランドの電力会社はつとに、中国咸陽市で地熱発電を手がけている。

 今後両国は、アフリカに共同で技術を持ち込み、化石燃料に依らない発電の普及に歩調を合わせるらしい。小なりとはいえ西側先進国と組み地熱発電を最貧国で広めることは、中国のイメージ向上に資すとの計算があろう。

 西側では珍しく、アイスランドは中国を真の市場経済国と認定した国で、この認定は今なお残る対中武器禁輸枠組みを撤廃させるのに必須の要件だから、北京にとってレイキャビクは意外にも頼りがいある相手だった。

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