World Energy Watch

2018年1月9日

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 冬の中国北京空港に降り立つと、「霧」が立ち込めていることがある。視界が悪い時には北京市から天津市への高速道路が通行止めになるほどだ。地元の人が「霧」と呼ぶものの正体は、主として石炭から排出される大気汚染物質を含むスモッグだ。冬に天津の街に入ると石炭の匂いがする。

 PM2.5あるいはPM10による大気汚染に悩む中国は、北京市を中心に2013年から大気汚染対策として石炭使用量の削減を進めてきた。日本の石炭火力発電所では、低硫黄、低窒素分の石炭を利用し、脱硫、脱硝装置、電気集塵機を通し排出を行っているが、中国の古い発電所では十分な公害防止装置がないまま質の悪い石炭を使用しているため、大気汚染物質が排出される。中国は古い石炭火力発電所の廃棄を進め、石炭消費の削減に取り組んでいる。

(Evgeny Gromov/iStock)

 さらに、北部の多くの家庭で暖房用として質の悪い石炭が使用されることも、大気汚染の原因とされている。冬の北京市では石炭需要の約50%は家庭などの暖房用の石炭によるものとされている。大気汚染が悪化する冬を前に、北京市、天津市、河北省などの家庭の暖房用、小規模企業の燃料を、石炭から天然ガスあるいは電気に切り替える政策が2017年強力に進められた。その結果、零下にもなる厳冬下に暖房手段を失った家庭、学校などが多く出てきた。

 加えて、石炭からの切り替えを強引に進めた結果、代替需要が急増した天然ガス供給に支障が生じ、一部企業は操業を停止せざるを得ない事態に追い込まれた。南部湖南省の省都長沙では天然ガスを北部の需要地に回したため暖房用の天然ガスにも事欠くようになり、官庁のビルの暖房は停止された。さらに、需要増は価格も押し上げ、日本向けの天然ガス価格にも影響が生じている。

 中国ならではの強権的なエネルギー政策が重視したのは大気汚染対策だったが、地球温暖化問題も考慮された。石炭を二酸化炭素排出量が相対的に少ない天然ガスに切り替えれば、2016年11月に発効したパリ協定下で中国が目標としている、「2030年までに、可能ならばもっと早く、二酸化炭素排出量をピークアウトする」「国内総生産額単位当たりの二酸化炭素排出量を、2030年に2005年比60%から65%削減する」の達成にも寄与することになる。

 環境対策を重視した結果、エネルギーの安定供給と価格に問題を生じ、結局、12月上旬になり政府は石炭の使用を認めざるを得なくなった。エネルギー政策で重視すべきことを中国政府が考えなかった結果だ。この事例から日本が学ぶべきことも多い。

大気汚染が寿命を縮める

 2016年10月に、中国の大気汚染問題と平均余命との関係を解明したシカゴ大学教授などの共同研究論文が、米国科学アカデミー紀要に投稿された。中国北部と南部では大気汚染濃度に差があることに注目し、データを分析した論文だった。

 長江と黄河の間を流れる中国第3位の淮河と秦嶺山脈を結ぶ線は、華北と華南を分ける境界線とされ、気候も境界線の南と北では異なる。中国では、境界線の北の地域には暖房用として室内で燃やす石炭に対し、1950年代から大きな補助金が支出され、場所によっては無償で石炭が配布される淮河政策が実施された。補助金がない華南においては、石炭の使用は少なく天然ガスあるいはエアコンが暖房に利用されている。このため、石炭の使用が多い華北においては大気汚染の状況が相対的に悪化した。その状況は図-1に示されている。

 論文での分析の結果、中国の平均PM10(粒子状物質)は1立方メートル当たり103マイクログラム(103㎍/㎥)、華北では平均すると華南より41.7㎍/㎥高いことが分かった。世界保健機関(WHO)のPM10のガイドラインは年平均20㎍/㎥、24時間当たり50㎍/㎥なので、中国全土でもガイドラインの5倍以上の値になるが、華北の平均余命は華南より3.1年短くなっている。論文ではPM10が10㎍/㎥上昇すると、平均余命は0.64年短くなるとしている。

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