WEDGE REPORT

2010年12月14日

»著者プロフィール

今年の7月、埼玉県秩父市で県防災ヘリが沢登りの女性遭難者の救助活動中に墜落し、隊員ら5人が死亡するという痛ましい事故が起きた。この事故の原因を追究していくうちに、同県自民党県議団議員の発案で、防災ヘリの有料化を含めた条例案が今月12月、県議会に提出される予定だったが、蓋を開けてみると、有料化は附則条文での記載にとどまった。ここに至るまで、一体どのような経緯があったのだろうか。

 埼玉県自民党県議団は、「県内で発生した山岳遭難事故で県の防災ヘリコプターが出動する場合、遭難者にその運航費用を負担させることができる権限を知事に付与する」という条例案を今年9月の議会へ提出予定だったが、同県議団内で「議論が不十分だ」という声があがり、検討の末、今月12月の成立を目指す運びとなっていた。

 しかし、今月13日(火)に明らかになった『埼玉県防災航空隊の緊急運航業務に関する条例(案)』の条項には、肝心の有料化の文言は見当たらず、附則2で、「県は、航空機の適正な運航の確保及び山岳遭難等の発生の抑止の観点から、山岳遭難に係る緊急運航に要した費用の遭難者等による負担その他必要な方策について早急に対応するものとする」という記載にとどまっていた。 

きっかけは秩父市の防災ヘリ墜落事故

 そもそも、なぜ埼玉県で防災ヘリ有料化が検討されたのだろうか。法案の作成に深く関わった同県自民党議員の田村琢実氏は、そのきっかけが、今年起きた秩父市の防災ヘリ墜落事故だったと説明する。

 「事故の原因が究明される前に、新たな防災ヘリ購入が議会で決まったことを受け、『事故を繰り返さないためにも、運行状況を再確認する必要があるのでは』『そもそもの原因である山岳救助について、対応を考える必要があるのでは』という話が先輩議員との間であり、個人的に調べを進めました」(田村氏)。

 事故について調べを進める中で、田村議員は埼玉県の防災ヘリの運航実態を知った。同県では消防組織法の規定を受け、「埼玉県組織規則」において防災ヘリコプターの運用を事務として定義し、運航していたが、総合的な指針となるものがないだけでなく、緊急運航に関する詳細なガイドラインについては「救急」についてしか用意がされておらず、「山岳救助」については曖昧な運航が行われていた。同様の事故を繰り返さないためにも、運航責任の所在を確定させ、運用規則のもとで出動させる重要性を感じたのだった。

 そこで田村議員は、「防災航空隊の緊急運航業務」を知事の事務として規定し、細かなガイドライン作成の検討とともに、防災ヘリの緊急運航活動の中で、山岳救助は遭難者の自己責任に帰する部分が大きい事案であることを鑑み、防げるはずの山岳遭難事故が全国的にも増えているという現実を考慮しても、救助費用の遭難者自己負担を求めることを規定した条例が必要なのではと考え、試案作りに着手していった。

田中康夫氏によって
話題となった防災ヘリ有料化

 防災ヘリの有料化については、2004年に長野県・田中康夫知事(当時)から同県危機管理局へ検討命令が下り話題となったが、「有料とする場合の基準をどう設けるのか。また、自主運航と見なされれば航空法に抵触する可能性もある。さらに、隣県との整合性はどう考えるのか、など多くの課題が持ち上がり、有料化は困難という結論に達した」(長野県危機管理局現担当者)ということに加えて、その後田中氏が知事選に落選し、有料化議論は立ち消えとなった。やはり今回の埼玉県の条例案でも、同様の課題が指摘されたが、それを乗り越えるために試行錯誤がなされてきた。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る