チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年12月15日

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有本 香 (ありもと・かおり)

ジャーナリスト

企画会社経営。東京外国語大学卒業後、雑誌編集長を経て独立。近年とくに中国の民族問題の取材に注力している。『中国はチベットからパンダを盗んだ』(講談社)『なぜ、中国は「毒食」を作り続けるのか』(祥伝社)の他、近著に『中国の「日本買収」計画』(WAC BUNKO)がある。

 現在は獄中にある、中国の民主活動家、劉暁波氏のノーベル平和賞受賞に際し、中国側から「真骨頂」ともいうべき反応が示された。「孔子平和賞(孔子和平奨)」なるものを創設し、台湾の元副総統、連戦氏への授賞を決めた件である。

 とうの連戦氏には、正式な授賞の連絡が来ておらず、当然、連戦氏は授賞式を欠席。そのため(?)、急遽、連戦氏とまったく無関係の、「平和の天使」なる、そのへんにいた少女にトロフィーを授与するという出鱈目ぶりは、いかにも中国らしい顛末だ。

 この報道を聞いた日本人の多くが、失笑したことだろう。世界も、こんな馬鹿げたことを真面目に取り合うはずもない。誰もがそう思ったに違いない。しかし、そういってやり過ごすこともできない、という懸念が筆者にはある。

ドタバタもまた中国流の真骨頂?

 この賞は、「中国評奨委員会」なる「民間組織」によって選定されたという。きっかけは、中国共産党の機関紙である人民日報系列の国際問題専門誌「環球時報」(11月15日付)にて、スイス・チューリッヒ州立銀行北京代表所の劉志勤首席代表が、「中国の民間組織が、ノーベル平和賞に対抗して、『孔子平和賞』を創設すべきだ」と提案したことと伝えられた。どうやら、準備期間わずかひと月足らずで、「中国自身の平和観、人権観を世界に示す絶好の機会となる」ほどの賞が、民間の組織によって設立されたというのだ。

 世界中がこの報道を信じてはおらず、すべては共産党中央宣伝部による、なりふり構わぬ対抗措置であろうと思われた。ところが、実際はそれほど単純でもないとの情報もある。

 共産党内部にはかねてから、ノーベル平和賞について、さまざまな意見があったらしい。ノーベル平和賞は、中国にとっての長らくの頭痛の種であった。中国共産党政府が、「国家分裂主義者」とのレッテルを貼る、チベットのダライ・ラマ14世法王が20年以上も前にすでに受賞しているし、その後も、中国政府が同じく「国家分裂主義者」とするウイグル人の指導者ラビア・カーディル女史や、劉氏と同様、中国国内で民主化活動を続ける胡佳氏も候補に挙がった。

 こうした状況から、以前から幾度か、中国共産党内には、ノーベル平和賞に対抗するため、中国独自の平和賞を創設すべきだとの提案はあった。その実現が見送られてきたのは、「そんなことをしては、国際社会の物笑いの種になる」という、きわめて常識的な意見もあったからだという。それでは、今回の唐突な「孔子平和賞」の創設とドタバタな顛末は何なのか?

連想させられたのは、ナチスか?

 孔子平和賞の件が伝えられたとき、日本の一部の識者や欧米の識者から、ある見立てが述べられた。1935年のドイツで、強制収容所送りとなっていた反戦主義者のカール・フォン・オシエツキーがノーベル平和賞を受賞したときの経緯との相似性の指摘である。このとき、ナチスは、ノーベル平和賞に対抗して「国家芸術科学賞」なる賞を設けたのだ。今般の孔子平和賞創設はそれと同じではないかというわけである。

 余談だが、以前も、北京五輪の典型的な国威発揚型のスタイルが、ナチス治世下のベルリン五輪に類似しているとの指摘の声があがったことがある。

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