安保激変

2018年3月1日

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村野 将 (むらの・まさし)

岡崎研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。現在、日本国際問題研究所「安全保障政策のボトムアップレビュー」研究委員等を兼任。その他、Pacific Forum CSIS Young Leaders Program、米国務省International Visitor Leadership Program(National Security Policy Process)招聘。専門は、米国の国防政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策、シナリオ演習。

 2018年2月2日、トランプ政権は米国の核戦略や核戦力態勢を定める文書Nuclear Posture Review(NPR)を8年ぶりに公表した。NPR2018は筆者が昨年11月に指摘した内容(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10992)をほぼそのまま反映しているが、本稿ではNPR本文を改めて読み解き、従来のNPRからの継続性と変化の双方の面から、日本の安全保障に与える影響について分析してみたい。

(iStock/Goldcastle7)

中露との「大国間競争」への回帰

 まず大きな変化の1つとして挙げられるのが、脅威認識の変化である。NPR2018の冒頭では、安全保障環境が過去8年間でいかに不確実化しているかが述べられ、特に核問題の焦点がロシア・中国との「大国間競争(great power competition)」に回帰しているとの認識が強調されている。この記述は、「核テロ」と「核拡散」の防止を核問題の最優先事項としていたNPR2010とは対照的である。この「大国間競争」という表現は、2015年末頃から用いられ始め、2017年12月に発表されたトランプ政権の「国家安全保障戦略(National Security Strategy:NSS)」や18年1月に発表された「国家防衛戦略(National Defense Strategy:NDS)」でも同様の認識が述べられている。このことは、近年ワシントンの安全保障コミュニティにおいて、中露の行動に真剣に向き合うべきという共通認識が形成されつつあることを反映したものと言える。

 中露に対する脅威評価は、程度の差こそあるものの、(1)国際約束の違反・不履行、(2)戦略核・非戦略核(戦術核)戦力の増強、(3)(2)を背景とした米陣営の通常戦力優位への挑戦(対宇宙・サイバー、接近阻止・領域拒否[A2/AD]能力、地下施設の拡充等)、(4)力による現状変更と国際秩序への挑戦、という諸点で整理されている。こうした問題認識は、これまでにも別個の論点として政府や軍の高官の口から語られることはあったものの、NPRという核戦略を示す文書の中で、核兵器の作用が核戦争領域にとどまらず、通常戦争領域や紛争に至る以前の「グレーゾーン領域」においても影響を及ぼすことが繰り返し強調されている点では画期的と言えるだろう。

 一方、北朝鮮とイランは、保有する(核)ミサイル戦力の質・量こそ中露に劣るものの、その能力向上は米国にも脅威を与える可能性があることを指摘するとともに、それが周辺国の核保有欲求を助長したり、関連技術を暴力過激主義組織などに移転しうる可能性に言及し、核拡散や核テロのリスクとしても描写されている。

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