モルディブといえばリゾート地として有名だ。けれどもインド洋に浮かぶ人口32万人、淡路島の半分に過ぎない小国は、近年インドと中国が勢力を競う「グレート・ゲーム」の舞台と化した。洋上交通の要衝だからである。
イスラム教国のモルディブが、同じ宗教を奉じるパキスタンの影響下に入ることをインドは常々案じてきた。
インド、三方を囲まれる危機
しかし近年はそれ以上に、中国がヒト、モノ、カネの力でモルディブの歓心を買いつつあるのをインドは恐れている。心配が高じ、既に中国海軍が潜水艦の秘密基地をモルディブに造ったとか、再々噂になるほどだ。
ミャンマー、バングラデシュ、スリランカそしてパキスタンで、つとに中国は大きな港湾を造営したか、しつつある。いずれ中国海軍の寄港先となり得る港の数々だ。これにモルディブが加わると、インドは三方を囲まれる。
軍事専門紙ディフェンスニューズが以前伝えた(2009年8月21日)ところによれば、インドは巡視船や海上監視レーダーをモルディブに与え、レーダー情報は自国の海軍、沿岸警備隊が見られるようにするとのことだった。
また09年8月英紙テレグラフは、インド海軍がモルディブに基地を造るつもりだと報じた(顛末は未確認)。
それに対し中国は、まずモルディブ外務省の「美しい」庁舎を建てて与えた。引用は08年5月26日、モルディブが北京に大使館を開いたのに合わせ訪中し、挨拶に立ったモルディブ外相が用いた表現である。この種贈与を援助とみなさない準則が先進国間にはあるが、もとより中国は縛りを受けない。
10年5月には、北京はモルディブに米ドル換算730万ドルの無償援助を与えた。とはいうもののこれは1500戸の住宅建設に当てられ、中国機械設備進出口総公司という国営企業が事業を請け負うヒモつき援助である。
また中国人にとってグアムよりモルディブの方が旅行先として人気らしく、10年2月には1万3345人の中国人がモルディブを訪れ、国別で初めて最多となった。2位はイタリアで、欧州の国が二番手につけるなどモルディブの歴史始まって以来のことだったらしい(Miadhu News)。モハメド・ナシード大統領が訪中した折(10年5月)、胡錦濤中国国家主席は「訪問客をもっと増やす」と約束している。
北京によるカネ(援助)、モノ(住宅や官庁舎)の提供とあいまち、モルディブをいわば推奨訪問先として旅行客を送るヒトの攻勢が、いやでもモルディブの関心を中国へ向けさせる仕掛けである。今年1月新華社が伝えたところでは中国からモルディブへ向かう旅行者は毎月1万人を上回るペースだといい、日本からの年間約3万7000人(09年)をはるかに凌駕する。