チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年8月3日

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阿古智子 (あこ・ともこ)

東京大学総合文化研究科准教授

1971年、大阪府生まれ。香港大学大学院博士課程修了。在中国日本大使館専門調査員、学習院女子大学准教授、早稲田大学国際教養学部准教授などを経て、2013年から現職。専門は現代中国論。著書に『貧者を喰らう国 中国格差社会からの警告』(新潮社)がある。

 200人以上の死傷者を出した中国高速鉄道の追突・脱線事故では、安全よりスピードを重視した鉄道部(鉄道省)の利権・腐敗構造に批判が集中している。中央政府は自分の足元に及ぶケースもあるため、汚職官僚を右から左へと単純に処分するわけにはいかないが、批判の目がますます厳しくなるなか、なんとしても国民の不満を解消する方法を探さなければならない状況にある。

中国の「黒社会」一掃キャンペーンっていったい何?

 社会矛盾が噴出するなか、指導者は不満を鬱積させる民衆の心理を読み取り、政策に生かそうと試みる。この点において、重慶市共産党委員会書記の薄熙来が2007年11月の就任直後から推進している「打黒」(黒社会一掃キャンペーン)は、一定の効果を上げている。

 「黒社会」は日本でいう暴力団のような犯罪集団である。薄熙来は黒社会のメンバーとその関係者1500人以上を一斉に摘発し、銀行口座の凍結や武器の押収を行った。公安局副局長と司法局局長を務めていた文強は、黒社会から多額の賄賂を受け取り、便宜を図っていただけでなく、自ら黒社会の幹部と共に犯罪に加担したとして死刑の判決を受け、10年7月に執行された。文強が受け取った金品は公開され、メディアに大きく伝えられたが、なかでも油紙に包んで池に隠されていた総額2000万元の札束や数多くの骨董品には唖然とさせられた。

突貫工事のような大量逮捕 薄熙来書記の思惑

 黒社会一掃キャンペーンに対しては、長年放置されていた問題にメスを入れたとして賞賛の声がある一方で、短期間で成果を上げるため適正な法的手続きを省略し、政治キャンペーン化しているという見方もある。薄熙来は政治局常務委員会入りを目指すなら、年齢的に考えて、次期(来年の共産党第18回全国代表大会で選出)が最後のチャンスであり、相当焦っていると見られている。

 北京大学教授の賀衛方は、重慶市のやり方を「黒で黒を制するようなものだ」として批判し、同市政府に公開書状を提出した。「8カ月という短い期間で“民衆による投書と検挙”という名の下に“密告”を呼びかけ、5000人近い人を“黒社会に関係している”として逮捕し、数百人に上るチームを組んで突貫工事のように早い“重慶スピード”で大量の逮捕を承認し、起訴から審判までを行った」

刑期満了直前に突然起訴された弁護士

 賀教授ら法学者たちは、被告の1人である剛模の弁護を担当し、証拠偽造および証拠収集妨害を理由に起訴された弁護士の李庄を被告とする裁判に関しても、異議を唱えている。本裁判は、「証人が出廷を希望しない」という訳のわからない理由で証拠による事実認定を行うことなく終了し、李庄が第二審の判決が出た後に「公安と検察の誘導によって罪を認めざるを得なかった」と訴えたが聞き入れられなかった。

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