さよなら「貧農史観」

2011年9月15日

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昆 吉則 (こん・きちのり)

『農業経営者』編集長

1949年神奈川県生まれ。農機業界誌編集を経て、87年に株式会社農業技術通信社設立。93年に日本初の農業ビジネス誌『農業経営者』を発刊。

貿易自由化すれば、日本のコメの9割が壊滅的な打撃を受けるという農水省。
だが、地理的条件や使う農機の違いから、米国の農家が日本品種を生産する動機は大きくない。
一方、国内では、農機メーカーの変化も追い風となり、低コスト化農業に取り組む経営者が育ち始めている。

 我が国の環太平洋経済連携協定(TPP)参加が話題になった昨年10月、農林水産省は「国産米のほとんどが外国産米に置き換わり、新潟コシヒカリ・有機米といったこだわり米等の差別化可能な米(生産量の約10%)のみが残る」との試算を発表した。自由化すれば日本のコメ農業は9割が壊滅的打撃を受けると言うのである。その試算は根拠がいい加減で、国民にコメ農業の弱さを印象付けるためだとしか思えない。

米国農家は日本品種を作らない

 農水省の試算では、国産米(247円/キロ)と外国産米(57円/キロ)との内外価格差を4倍強であると言い、その品質格差も「今後の品種転換等により解消可能」だとしている。さらに「米国では、輸出量が現在約400万トンあり、これにアジア諸国等の輸出量を含めると我が国の生産量を上回る水準」になり、したがって前記のとおりコメは9割が外国産に置き換わると言うのだ。

 だが、農水省が対比する57円/キロのコメとは、1993年のコメ不足時に輸入して不評を買った長粒種の価格である。また、カリフォルニア米(中粒種)が190円/キロで、米国のコメ輸出量は400万トンだというが、米国のコメ総生産量約1000万トンの70%は長粒種であり、短・中粒種は30%しかなく、総輸出量のうち短・中粒種を合わせても80万トンに過ぎない。消費者が長粒種で我慢しない限り、TPP参加国には日本の9割を供給するコメなど存在しないのだ。

 筆者は2007年、7人のカリフォルニアの稲作経営者を招き『農業経営者』読者と“「国境の壁」崩壊後の稲作経営”と題したシンポジウムを行った。カリフォルニアの農家たちも当初は日本品種の生産に意欲を燃やしていたが、結局は止めてしまった。収量が安定せず市場も小さい日本品種を作る経営的魅力が小さいからだ。

 さらに肝心なことがある。収穫に使うコンバインの違いである。米国では麦や大豆、トウモロコシなどにも使う普通型コンバインでコメを収穫する。日本の農業機械メーカーのものと違い、刈り幅は大きなもので10メートル以上、馬力も大きく、刈取部を替えるだけでさまざまな作物を収穫することができる汎用性の高い機械である。

 一方、日本で使われている自脱型コンバインと呼ばれる機械は、稲穂の部分だけを脱穀部に供給するタイプで、能率では普通型コンバインには及ばない。だが、良食味米生産の条件である高水分条件(20~28%程度)で日本品種を収穫しても、収穫ロスは1%未満である。長粒種や中粒種は麦と同様に稲穂から籾が離れやすいが、日本品種は稲穂から籾が離れにくい。そんな日本品種を米国の農家が使う普通型コンバインで食味を重視した高水分条件で収穫すれば、40~50%のロスが出てしまうのである。そもそも大規模経営の米国の稲作農家は作業能率の低い自脱型コンバインを使わないし、それを購入するとは考えられない。また、彼らは収穫ロスを減らすべく、籾水分が16~17%になるまで乾燥させてから収穫するため、日本人が好む食味のコメにはならない。

 こう考えると、米国の農家が日本品種の生産を増やすとは考えにくい。

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