チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年9月21日

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 9月17日、中国国内のポータルサイトである「新浪網」が注目すべきニュースを掲載した。全国人民代表大会(全人代)・財経委員会の尹中卿副主任たる人物が大連で開かれた世界経済フォーラムの夏季ダボス会議の席上、中国政府の経済政策に対する批判を展開したのである。

貨幣過剰供給の「副作用」

 彼が俎上にのせているのは、2008年からの米国金融危機・世界同時不況に対処するために、中国政府が2009年以降、数年間にわたって実施した大掛かりな景気対策である。尹副主任はまず、「2008年以来の3年間、景気対策として融資拡大=量的緩和が政府の主導下で進められた結果、約73兆元(868兆円相当)の貨幣が過剰に発行された」と指摘した上で、現在の中国経済の抱える深刻なインフレは、まさに上述の貨幣の過剰供給のもたらした「副作用」であると断言した。

 尹副主任はさらに、「しかしわれわれは現在に至ってもこのような副作用を認めたくない。あるいは認める勇気がない」と、政府の対応にあからさまな不満を露わにした。

 筆者は本欄において、かねてから「中国政府による札の濫発こそが今の中国経済を苦しめているインフレを作り出した元凶である」と指摘してきたが、今度は、中国国内で高い地位にある人物が、あたかも「石平説」を追認したかのような形で批判を展開しているのである。

全人代の高官から民間人まで
「中国のインフレは政府が作り出したものだ」

 問題は、このような批判を行った尹副主任の立場である。彼は前述の通り、全人代財経委員会の副主任の要職にある。この「全人代=全国人民代表大会」たる機関は、いわば中国の「国会もどき」もので、政府と同じく体制の一翼を担う存在である。それが今や、全人代の高官でさえも、公の場で堂々と、政府の行った経済政策を批判するようになったということは、まさに中国における新しい変化の一つであると言えよう。

 しかも、中国国内では誰でも知っているように、上述の「貨幣過剰供給」の景気対策を主導してきたのは、紛れもなく現役の総理大臣の温家宝である。温氏自身、自分がこのような景気対策を断行したからこそ中国経済が世界同時不況を乗りこえて高い成長率を維持できたと自負している節もあるから、尹副主任による上述の政策批判はまさに温家宝総理に対する間接的な攻撃とも捉えるべきであり、同時に、温家宝総理の率いる政府に対する「責任追究」の意味合いも含まれているのである。

 その背後に何らかの政治的背景があるのかは不明であるが、少なくとも事実として、全人代の高官が政府の経済政策や現役の総理大臣に対して遠慮のない批判を堂々と始めた、というような出来事が現実に起きたことは、まず注目すべきであろう。

 実は、温家宝政府の行った上述の景気対策に対して、全人代の高官のような立場の人だけでなく、いわば無冠無位の民間人も最近、批判の狼煙を上げているのである。

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