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2011年10月20日

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菅野雅明 (かんの・まさあき)

JPモルガン証券 チーフエコノミスト。東京大学経済学部卒。1974年に日本銀行入行。秘書室兼政策委員会室調査役、調査統計局経済統計課長等を歴任し、99年にJPモルガン入社。専門は、金融政策および景気循環論。

3.11の事故により全国の原子力発電所が順次運転を停止し、火力発電への代替が進む中、
化石燃料の輸入量が大幅に増加。資源価格の高騰も加わって、輸入額が膨張。
円高による空洞化、グローバル競争による価格低下圧力により、輸出額が伸び悩む傾向が定着。
輸入増、輸出減による貿易赤字の拡大により、このままでは2014年末には経常収支も赤字化へ。
今こそ遅れていた国際化を進め、構造改革を果たすために、実効的な規制緩和と開国が必要だ。

 日本経済は2014年末にも経常赤字に陥る可能性が出てきた。この問題を深刻に捉え、抜本策を講じる必要がある。野田佳彦政権は円高・空洞化対策を打ち出しているが、対症療法だ。経常赤字まであと3年と断言はできないが、10年はもたないだろう。経常赤字となれば、外国人投資家に国債購入を委ねることになり、「悪い金利上昇」が始まる。結果、利払費が急速に増加し、痛みを伴う構造改革は一層困難になる。経済成長も財政再建も一挙に遠のく。

貿易赤字の拡大が所得収支を食い潰す

 なぜ経常赤字になるのか。

 まず、今後、原発の稼働率低下に伴う火力発電への代替で、化石燃料の輸入が大幅に増える。また、輸入価格が輸出価格を相対的に上回る傾向(交易条件の悪化)は当面続く。

 一方、輸出も、東日本大震災でサプライチェーンが寸断され減少、本年4月以降5カ月連続で貿易赤字に落ち込んだ。今後、生産の復旧により一時的には貿易黒字に回復することはあっても、円高による空洞化、グローバル競争による価格低下圧力により、輸出額が伸び悩む傾向は定着するだろう。今回の円高は、米国の金融緩和長期化、欧州の財政危機により欧米から資金が流出していることが背景なので、円高基調は当面続くだろう。輸入増、輸出減による貿易赤字は今後定着し、赤字幅が拡大する可能性が高い。

 経常収支には貿易収支のほか所得収支も影響するが、貿易赤字となっても経常黒字が維持されているのは所得収支が黒字だからである。所得収支は過去の海外投資からの収益であり今後も高水準で推移する見通しだ。しかし、受取額の過半を占める債券利子収入は、先進国の長期金利が低下傾向にあるので、所得収支の黒字額が今後大幅に増加することは考え難い。所得収支の黒字を貿易赤字が食い潰してしまう、つまり経常収支が赤字化するのが、早ければ14年末にも訪れるだろう。

 今回の円高は、国内の製造業に体質変化を要求している。当面続くであろう円高や、電力エネルギー問題も加わったコスト増、一向に進まない規制緩和などを背景に、各企業は海外進出を加速させ、空洞化が進むが、逆に見れば、遅れていた国際化を進める絶好機でもある。日本企業はこれまでに蓄積した高水準の手元流動性を今こそ取り崩して中長期的な海外戦略に役立てるべきだ。

 日本の製造業の海外生産比率は17.2%(09年度、経済産業省調査)と、米国やドイツの半分ないしはそれ以下と明らかに後れを取る。円高に窮状を訴え、政府に円安誘導を求める経営者は多い。また、為替は上下に変動するので、いずれ円安になる日もあるだろうが、自ら制御できないリスクは最小にすべきだ。

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