2024年12月23日(月)

経済の常識 VS 政策の非常識

2011年11月16日

 工場やオフィスを建てるにも、自分の家を建てるにも、結婚式や葬式をするにも、レストランや居酒屋に行くにも、いくらかけてどのくらいの利益や満足を得ようかと、誰もが考える。ところが、東日本大震災からの復興計画には、一定のお金でどれだけの効果を得るかというコスト感覚がない。

 震災で自分の会社の工場が壊れてしまったら、まず再建を考える。撤退も考えるかもしれないが、通常は、今の工場を造り直し、設備を安価でより良いものにし、需要を考えて生産能力を増減することを考える。すると、まず、いくら壊れて、いくらかけて再建するかが出発点である。

 政府の復興計画でも同じであるべきだ。まず、道路や橋や港湾などは税金で直す。津波が再び来るような場所に道路や橋を造れないから、なんとか土地をやりくりして造り直す必要がある。漁船や漁具や水産加工所や農業施設や住宅は、個人の財産であるから、全額を税金で建て直す訳にはいかない。しかし、街自体が消滅しないように、ある程度の援助はするべきだろう。すると、まず、いくら壊れているかが出発点になる。

 震災で、16.9兆円の物的資産が壊れたと政府は試算している。だから19兆円から23兆円の復興予算が必要だと言うが、そんなに壊れているはずがない。被害の大きかった福島、宮城、岩手でも、内陸部に入れば被害は限られている。この3県の人口は571万人であるが、津波による浸水地域の人口は51万人である(総務省統計局調査)。この中には、床下浸水地域の人口も含まれている。震災で避難された方は、ピークで40万人である(警察庁緊急災害警備本部)。すると、自宅に住めないような深刻な被害に遭われた方は、せいぜい50万人程度である。

 一方、日本全体の工場や住宅、道路や橋や港などの物的資産の額は1237兆円である(「国民経済計算」)。日本の人口は1億2691万人なので、1人当たり975万円の資本を持っていることになる。東北で破壊された物的資産は、975万円に50万人を掛けた4.9兆円程度ではないだろうか。これを少し多めにして6兆円としよう。日本全体の物的資産のうち、民間の資産と公共の資産の比は2対1なので、東北でもこの比は同じとすると、破壊された民間資産は4兆円、公的資産は2兆円ということになる。

 そんなに壊れていないことは、被災地の自治体も認めている。農林水産業と公共土木施設などを合わせた被害額は、岩手県が7703億円、宮城県(仙台市を除く。以下同じ)が1兆8102億円、仙台市が4010億円、福島県が5915億円であるという(各県市の復興計画の参考資料などによる)。

 宮城県の被害額が大きいが、過大な推計である。宮城県は、住宅被害は3兆3775億円であるとしているが、仙台市の住宅(宅地も含まれている)被害は1600億円にすぎない。震災による全壊・半壊の住宅は、宮城県は8万2724戸であるのに対し、仙台市は6万8920戸である。全半壊の住宅は、宮城県が仙台市の2割多いだけであるのに、被害額は宮城県が仙台市の21.1倍も大きい。宮城県の全半壊の住宅8万2724戸に対して建物被害が3兆5375億円ということは1戸4083万円の被害となる。これはありえない推定値である。


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