中国はいま某国で

2011年12月7日

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谷口智彦 (たにぐち・ともひこ)

慶應義塾大学大学院SDM研究科特別招聘教授

明治大学国際日本学部客員教授。2008年7月まで3年間外務省で外務副報道官。元日経ビジネス記者、編集委員、ロンドン外国プレス協会会長。著書に『同盟が消える日』(編訳、ウェッジ)など。(2013年1月末日現在)

 今年8月27日、ルーマニア第2の都市ヤシの建設現場で働く中国人約50人が、待遇への不平から暴れだした。

EU、NATO加盟国・ルーマニアに接近する
政治的理由

 中国人管理者は説得に失敗、鎮圧には催涙ガスと警察力を頼まなくてはならなかった。事件がはしなくも露呈させたのは、ルーマニア経済に対する中国の浸透ぶり、その深さである。

 やや先立つ同月10~16日には、エミル・ボック首相が外相、公共財務相、運輸・社会基盤相ら大代表団を率いて中国を訪れ、ルーマニアのインフラ整備に中国がより一層関われるよう要請したばかりだった。

 ドナウ川・ブカレスト間の運河建設、ブカレスト環状道路の整備に水力発電所の建設など、要請は大きいものだけで5項目にわたる。原子力発電所を2基増設する案件もその1つ。青写真がなかなか実行に移らずにきた事業だ。

 報道によるとこれ以外にも炭鉱経営や地下鉄建設を中国に任せる意向がある。国家の基幹インフラを中国に委ねて何も不安にならないところ、さすがは友誼と連帯の元社会主義国だ。ルーマニア国内には今次訪中への批判があったが、それとて「中国は大事な国だからもっと早く行くべきだった」とするもの。警戒感は微塵もない。

 案件はどれも邦貨にして1000億円を超す規模という。軌道に乗る頃には、北京・ブカレストの直行便が飛んでいる可能性が高い。人口2100万人強、経済規模は広島県をやや大振りにした程度の同国に、この先中国人労働者がますます増えていく。地元メディアがひっそり伝えた今回の騒ぎに似た事態は、今後ちょくちょく起こらないとは限らない。

 ルーマニアはEU加盟国だ。ここで作ればEU全域に無関税で持ち出せる。NATO加盟国でもある。食い込んでおけば、米国や英国など対中強硬、ないし慎重派の影響力をそれだけ削ぐことができる。商機を得つつ政治目的も追求でき、北京には一挙両得だ。

ブルガリアでは大規模農地取得へ

 同じうま味はブルガリアにおいてさらに際立つ。同じくNATOならびにEUの成員だが、経済規模は香川県より大きく、秋田県より小さい程度。工業化も遅れている。だからか、ブルガリアは国土開発それ自体まで中国に丸投げしかねぬ勢いだ。

 EU他国向け輸出基地となる大規模工業団地の設計・管理に、ブルガリアは中国省レベルの成功体験を導入しようとしている。北京の承認ないし教唆あってのことだろうが、新機軸だ。

 例えば首都ソフィア郊外に計画中の案件は、東京ドームがすっぽり40個入る大きさという。これを造るのに引き込んだのが浙江省政府である。

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