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2012年1月17日

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磯山友幸 (いそやま・ともゆき)

経済ジャーナリスト

1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、東京証券部、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長などを務める。11年からフリーに。熊本学園大学招聘教授。近著に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)。

両親の家を相続するから、あえて家を買わない。そうした若い世帯が増えている。
その結果、不動産市場に起きるのは、深刻な買い手の不在だ。
一方で、介護施設への入所資金のために自宅を売りに出す高齢者も増えている。
買い手と売り手のアンバランスを克服するために必要なことこそ、「住宅面積倍増」だ。

 東京都世田谷区の閑静な住宅街。庭木が生い茂り、古びた木造家屋は今にも朽ち果てようとしている。家に人の気配はない――。

 今、世田谷区や杉並区といった住宅街で、老朽化した一戸建ての空き家が社会問題になっている。伸び放題の草木やそれに集まる虫や鳥への苦情が寄せられ、不法投棄のゴミに周辺住民も頭を抱える。

 登記上の所有者は高齢者が多く、現在どこに住んでいるのか分からないというケースも多い。老人ホームで暮らしているのか、親類宅に身を寄せているのか。住民登録がきちんと行われていないと、行政ですら追跡が難しいという。

 総務省が2008年に行った住宅土地統計調査によると、全国の住宅総数は5759万戸。そのうち756万戸が空き家だ。率にして13%。03年の同じ調査と比べて空き家は約100万戸も増加した。これにはアパートやマンションなどの空き家も含まれるが、東京近郊の住宅地の場合、戸建の空き家が目立っている。

 高齢化と人口の減少が急ピッチで進む日本。空き家率は今後も高まっていくのは間違いなさそうだ。日本の総世帯数は今や4900万世帯余り。住宅戸数の5759万戸はそれを大きく上回っている。「家余り」とも言える状態になっているのだ。

 では、家余りで何が起きるか。需要と供給で価格が決まるという経済学の原理からすれば、供給が過多になれば不動産価格が下がり、需要を喚起するはずだ。だが、都心の不動産業者はまったく違ったことを言う。

 「老朽化した一戸建てはこれから、簡単には売れなくなると思いますね」

 世田谷区や杉並区の165平方メートル(約50坪)の土地だと、最低でも5000万~6000万円。これに家を新築するとなると8000万~1億円はかかる。今や、若い世代でこれだけの高額物件を買える経済力のある人は少ない。25坪の2区画に分けたとしても5000万円。住宅ローンの金利が歴史的な低水準にあるとはいえ、なかなか手が出る水準ではない。

 一方で、あえて家は買わない、という若い世帯も増えている。少子化によって〝潜在的な〟持ち家比率が上昇していることが背景だ。1人っ子どうしの結婚が多くなり、両方の親の家をいずれ相続することになる。加えて祖父母が健在でやはり家を持っているというケースすらある。いずれは何軒かの家を相続することになるので、わざわざローンを組んでまで家を買う必要はない、という若者が増えているという。そうなると、少子化によって深刻な買い手不在という状況が不動産市場に起きることになる。

 都会では、民間の老人ホームなど老人介護施設に入居する高齢者がどんどん増えている。入居と同時に自宅を売却する人もいるが、それはむしろ少数派。いずれ資金が足らなくなったら売却しようと、そのままにしてあるケースが多い。これが冒頭の空き家へとつながっている一因とみられる。

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