中島厚志が読み解く「激動の経済」

2012年1月31日

»著者プロフィール
著者
閉じる

中島厚志 (なかじま・あつし)

経済産業研究所理事長

1952年生まれ。東京都出身。東大法学部卒業後、75年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。パリ興銀社長、日本興業銀行調査部長、みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミストなどを経て現職。著書に『統計で読み解く日本経済 最強の成長戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本の突破口―経済停滞の原因は国民意識にあり』『世界経済連鎖する危機―「金融危機」「世界同時不況」の行方を読む』(東洋経済新報社)など。

 2011年4月にみずほ総合研究所から独立行政法人経済産業研究所(RIETI)に移り、このコラムをお休みさせてもらったが、このたびウェッジのご厚意で再開することとなった。RIETIでは経済産業政策につながる多くの調査研究が行われており、足元の経済動向を読み解くに有用なものも多い。これらは折々ご紹介していきたいが、再開第1回目の今回は、昨年後半以来世界経済と金融市場の大きな下押し要因となってきた欧州債務危機について見てみたい。

 足元の欧州債務危機が深刻な根本原因は、本来共通の通貨を持つほどには経済が一体化していないのに、通貨統合をしてしまったことにある。それにもかかわらず、事態深刻化後のEUの対応が抜本策に欠け、欧州主要国間の対応の足並みすら揃っていないように見えることも、危機収束を遅らせている原因との見方がなされている。

 確かに、経済状態や金融財政政策のスタンスが国によって大きく違うのに、財政統合もできないまま通貨や中央銀行を一つにしたことは、今から見れば明らかに性急かつ強引にすぎた。

 しかし、足元のEU諸国の動きまでも、対応があまりに不十分で後手に回っていると理解するばかりでは、動きを見誤る。欧州債務危機は深刻だし、その根本的な解決は容易には描けないが、EUでは危機を抑え込むに十分値する対応が採られており、厳しい状況が続きつつもユーロ安やギリシャ、イタリアなどの国債の利回り上昇に歯止めがかかっている事実を軽視してはならない。

 さらに、通貨統合と欧州中央銀行(ECB)創設を決めたマーストリヒト条約の背景にある考え方が、今に至るもEU諸国に浸透しつづけていることも見落としてはならない。事態は危機的であり、綱渡り的な状況が今後も続くとしても、EUの動きを市場の視点だけではなくEUの視点からも見ていくことが、正確な事態把握につながる。

ギリシャの無秩序な破たんはない

 足元のEUの動きで特筆されるのは、まずギリシャや欧州系金融機関の破たんが起きにくくなっていることだろう。基本的にギリシャ政府の資金繰りはついており、ギリシャの財政健全化努力の不足でEU各国が資金供与を認めないといったテクニカルな要因以外には、事実上調達ができなくなる事態は抑えられている。

 実際、ギリシャ、アイルランド、ポルトガルの各政府には、EFSF(欧州金融安定化基金)、IMFなどが資金供給しており、国債による市場調達が滞りつづけても、当面の懸念はない。また、ECBは市場から国債を買い上げており、ギリシャ国債を保有している金融機関が売りにだしても買い手不在となることはない。

 さらに、ECBは金融機関向けにユーロを供給しており、ドルについては主要6か国中央銀行が供給することで、欧州系金融機関の資金繰りが行き詰るのを防いでいる。くわえて、昨年10月、11月に行われたストレステストで主要行の損失リスクは洗い出されており、資本を積み増すことで、金融機関がギリシャ国債などの価格下落で大きな損を抱え、資本不足に陥ったり、信用不安が広がったりすることも防ぎつつある。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る