銀座に本店を構える高級フレンチレストラン、マキシム・ド・パリが手掛ける高級パン「ドミニク・サブロン」が好調だ。2008年に販売をはじめて以来、売上は2億円から約14億円(11年)まで伸びた。“高級”といっても品質のことで、値段がとびきり高いというわけではない(200~300円台が中心)。
高級パン事業を推進したマキシム社長の寺川尚人氏は、元ソニーの人事部長。マキシムは、ソニー創業者盛田昭夫氏が1966年に立ち上げた。寺川氏は「新しいライフスタイルを提供するのがソニーの使命でしたから、日本で初めて本格的なフレンチレストランを盛田さんがはじめたのは不思議ではありません」と話す。寺川氏自身も、人事部長時代には「エレキにこだわらず」何人もの異才を採用し、新規事業を立ち上げさせた。
06年、マキシムは持ち株会社ごとソニーから独立。このとき、寺川氏は持株会社役員を務めており、10年にマキシムの社長に就任した。
マキシムに関わってから寺川氏は「レストラン事業だけでは頭打ち」と考えるようになった。そこで07年に「高級パン」事業の立ち上げを提案し、提携先としてパリの高級パン屋「ドミニク・サブロン」を選んだ。
続いて着手したのが、高級パン事業の多店舗化だ。製造責任者の榎本哲氏は「生地作りから焼き上げまで一貫して行うため品質の管理が難しく、店舗を増やすのは無理だと思っていた」と振り返る。だが、「誰もやったことがないからこそ価値がある」という寺川氏の言葉に気持ちが動かされた。経験者を中心に職人を採用して教育、製造設備がある5つの基幹店から配送するという仕組みを作り、13店舗まで拡大させた。
事業部長の齋藤正浩氏は、寺川氏について「ソニー時代の型にはめない所が、ソニーから来た他の経営者と違う」と話す。寺川氏はソニー時代には「フェリカ」など数十の新規事業の立ち上げにも関わりいくつもの成功を体験している。ただ、「時期も人も違うのだから、前の成功体験は役に立たない」(寺川氏)と、前例にとらわれなかったことが、成功要因となったといえる。
食材に革命を起こす
セル・アライブ・システム
この「ドミニク・サブロン」が日本全国、世界へさらなる展開を目指して出会ったのが、CAS(セル・アライブ・システム)という冷凍技術だ。マキシムは、アビー(千葉県流山市)のCAS冷凍庫の導入準備を進めている。
CASは「磁力によって振動を起こすため、食品が凍るときに細胞が壊れない」(アビー食品開発係長・渡邉由美氏)。このため、食品の旨味、香り、みずみずしさが保たれる。冷凍が難しい、こんにゃくなどにも使うことができる。