スウェーデンが脱原発しない理由

国民が電力会社を選べるシステム


伊藤清香 (いとう・さやか)

2年半の遠距離恋愛を経て、2008年冬にスウェーデンに移住した。「移民」としての生活に悪戦苦闘しながらも、新しい土地での一からの可能性に、人生を模索中。

スウェーデンで生きる 海外移住だより

どこにでもいる20代の日本人女性が、ある日スウェーデン人の青年と恋に落ち、北欧の国・スウェーデンに移住。大学では語学を専攻し、留学経験もある彼女だったが、「移民」としての生活は苦労の連続。悪戦苦闘しながらも、色々なものを得て約2年半過ごしてきた。このコラムでは、そんな「普通」の日本人が、海外生活を送る中で感じる日本社会、日本文化との違いを率直に綴っていく。

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東日本大震災から早くも1年が経とうとしています。

 被災者の方々がうちひしがれた悲痛や苦労とは比にもなりませんが、日本在住の皆さまと同様、海外在住の私たち邦人もとても深い悲しみに沈みました。周囲が掛けてくれる心配の声には涙が溢れるだけ。被害の状況を訊かれても、彼らが知っている以上の情報が手に入るわけではなく、緊張と不安のもどかしさが続く毎日でした。

 東日本大震災には、チリやハイチで起きた震災とは異なった一面がありました。それは、震災が自然の脅威を見せつけただけではなく、今後のエネルギー政策の方向性を各国に見直させることになった点です

脱原発を表明するEU諸国と逆進するスウェーデン

 福島第一原発事故に最も強い反応を示したのが、それまで原発推進国だったドイツです。メルケル首相率いるドイツ政府は、事故後の4ヶ月あまりで、「2022年までに国内にある17基全ての原子炉を閉鎖する」と、原子力政策を大転換させました。エネルギー供給源の75%を原子力が占めるフランスでさえも、2025年までに58基のうち24基を停止することで、その割合を50%に削減しようという動きが出ています。それ以外にも、スイスは2034年までに、ベルギーは2025年までに原発の全廃止を行うことに決め、原発を持たないイタリアやオーストリアでも国民の反原発活動が盛んになっています。

 しかし、EU諸国のこうした動きと逆進しているのが、スウェーデンです。

「福島第一原発事故以前の原発世論」(ヨーテボリ大学・世論メディア研究所)
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 スウェーデンでも、福島事故直後にスウェーデン世論調査機関Sifoが行った調査では即座の原発停止を25%の国民が求めました。毎年秋にヨーテボリ大学の世論メディア研究所(SOM-Instituet)が行っている原発世論調査では、2010年秋に即時停止派が8%だったのに対して、急激な変化です。

 ですが、グラフを見ていただけるとお分かりのように、スウェーデンでは1986年から、「長期的にみて原発を利用すべきだ」という賛成派の声が伸びています。福島第一原発事故直後に起きた上記の数値の変化が、このスウェーデンの長期的世論にどの程度影響を及ぼし得るかは、今のところはまだ正確な結果が出ていません。

「脱原発」宣言から一転…

 スウェーデンは、1979年に起きた米スリーマイル事故を受けて、1980年には世界に先駆けて「2010年までに全原発を廃止する」と国民投票で決定した経緯があります。しかし、その全廃期限は1997年に撤回され、2010年には古くなった原子炉の建替えを認めるなどの新政策が承認されました。全廃決議をした1980年以降、1999年と2005年に1基ずつが停止されたものの、現在でも10基の原子炉が稼動しています。

 そもそも歴史を遡ると、スウェーデンは早期から原子力開発に力を入れてきた国であり、60年代、70年代は世界でもその技術の最先端にいました。発電用の原子炉も自国で開発した、世界でも数少ない国の一つでもあるのです。

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「スウェーデンで生きる 海外移住だより」

著者

伊藤清香(いとう・さやか)

2年半の遠距離恋愛を経て、2008年冬にスウェーデンに移住した。「移民」としての生活に悪戦苦闘しながらも、新しい土地での一からの可能性に、人生を模索中。

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