さよなら「貧農史観」

2012年3月16日

»著者プロフィール
著者
閉じる

昆 吉則 (こん・きちのり)

『農業経営者』編集長

1949年神奈川県生まれ。農機業界誌編集を経て、87年に株式会社農業技術通信社設立。93年に日本初の農業ビジネス誌『農業経営者』を発刊。

家庭菜園ブームを追い風に、各地で「市民農園」や「体験農園」が増えている。
全国の耕作放棄地に、いまださまざまな税金が投入されているが、発想を変えれば、
エンターテインメント施設に変えることだってできる。“宝の山”は各地に眠っている。

 「体験農園に来るお客様は職業も様々ですが、どの方も一様に楽しんでいます。土を耕し、肥料を入れ、種を播き、自然に実が大きくなって収穫するという、農家にとって当たり前の行為を、新鮮な感覚で受け取ってくれているようです。農業に感動や癒しを求めているんだなと、つくづく感じますね」

 東京都練馬区大泉で「大泉 風の学校」という「体験農園」を主宰する白石好孝氏(58歳)はこう語る。

 現代の家庭菜園ブームを追い風に、各地でいま、「市民農園」や「体験農園」が増えている。農林水産省の調査では2009年、行政に登録されている市民農園は3596カ所もある。その数は年々増加しており、愛知県名古屋市では受け入れ可能数に対して4倍以上の応募があり、全国でも129%の応募率がある。 

 ニーズは都市部だけではない。非都市地域の市民農園も2割を超え、都市部と同様の伸び率を示している。人々の「土や農業に触れたい」との願望が強いことの裏返しであろう。雑種地と呼ばれる土地を使った市民農園は、自治体や農家、個人などが開設しており、農地法に基づき、農地を区画貸しし、種まきや収穫までの作業を借りた人が実施する農園である。

 一方、体験農園とは、農家が利用者に農作業を指導する農園のことで、単に農地を区画割りして市民に貸し出すものではない。しかも、そこで農業をするのは、あくまで農家であり、そこで作る野菜の種苗や肥料や農具なども全て農家が提供するということになっている。農園の会員は、農家の指導に基づき会費を払う。農家の作業の“手伝い”をするのである。つまり、会員は会費分の野菜を農家から買うという考え方であり、いわば、農業版のカルチャースクールといっても過言ではない。

東京都練馬区大泉の白石好孝氏が運営する「白石農園」。体験農園の参加者がNPOを設立し、海外の農業視察などの活動を行っている(提供・筆者)

 なぜこんな定義になるのか。農地法では、雑種地の市民農園であれば農地を貸せるが、体験農園にやってくるような一般人、つまり、非農家の人たちには農地を貸し出すことを認めていないからである。

 「大泉 風の学校」は前出の白石氏の先輩農家、加藤義松氏が練馬区に働きかけて、1997年4月に開設した。会費は、区民であれば区の補助があるため、年間3万1000円。区民以外よりも1万円安い。先述のように、会費の中には指導料、農機具、肥料、種子、収穫物の代金が含まれている。区内には現在、12戸の農家によって「練馬区体験農園園主会」という組織が作られている。

 きっかけは、加藤氏の「農業版カルチャーセンターをつくってはどうか」とのアイデアだった。練馬区ではそれまでも雑種地を使い、利用料が無料の市民農園があった。しかし、肝心の農地を管理する人がいなかったために、地域住民からは「管理が悪く美観を損ねている」といった苦情が出ていた。そこで白石氏らは、「プロの農家が畑の面倒を見ます、指導もします。きっとお役に立てます」と行政を説得し、体験農園が農地法上、整合するよう仕組みをつくった。さらに参加区民に会費の一部を補助するという制度ができあがった。こうして、都市農業の意義と「土や農業に触れたい」地域の人々が集う場所ができあがったのである。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る