米下院民主党がトランプ大統領の弾劾に向けて審議を開始したウクライナ疑惑は再選に焦った大統領が個人弁護士であるジュリアーニ元ニューヨーク市長に指示した“大統領の陰謀”である可能性が高くなった。灰色決着したロシアゲートと比べ、今回は大統領の不当行為や職権乱用を証明する証拠がそろっており、トランプ氏の苦境は深刻だ。
2つの疑惑の核心
ウクライナ疑惑の核心はつまるところ2つだ。1つはトランプ氏が7月25日のゼレンスキー・ウクライナ大統領との会談で、軍事援助の凍結解除の見返りに、次期大統領で対抗馬になる可能性のある民主党のバイデン前副大統領の不祥事を捜査するよう圧力を掛けたのではないかという点だ。国家の税金でもある軍事援助を餌に、外国の指導者を個人的な選挙に利用するという職権乱用の疑いである。
もう1つは、内部告発者によって暴露された疑惑を隠蔽するため、ホワイトハウスでもみ消し工作が行われたのではないかという問題だ。電話会談記録は通常と異なる特別なコンピューターシステムに移管されたことが確認されており、大統領の指揮下で隠蔽もみ消し工作が実施された可能性が指摘されている。事件の本質はニクソン大統領が辞任した選挙絡みのウォーターゲト事件に似通っているが、「同事件よりも深刻」(専門家)との意見も強い。
今後、民主党の6つの下院委員会で審議が行われ、弾劾に相当する根拠があるのかどうかを決定、下院の出席議員の過半数が賛成すれば、弾劾訴追が決まる。その後、上院に弾劾裁判所が設置され、最高裁長官が裁判長となって、弾劾の可否を判断。出席議員の3分の2の賛成で大統領の罷免が決定される。すでに下院では、弾劾訴追に賛成する議員が過半数の218人を上回った。
しかし、現状では、与党共和党が多数派を握る上院で弾劾に必要な3分の2の賛成を得ることが難しく、新たに大統領の不当行為を決定付けるような絶対的な事実などが明らかにならない限り、大統領罷免の可能性は小さいと見られている。だが、議員の投票行動に影響を与える世論は最新の調査で、弾劾に向けた審議開始を「支持する」人が47%と、「支持しない」の42%を上回っており、世論の動向次第で共和党議員の大統領支持の姿勢に変化が見られるかもしれない。
民主党のペロシ下院議長は「自らの選挙運動のために税金を使って外国を脅すのは大統領の仕事ではない。大統領の職務に対する裏切りだ」と厳しく指弾。情報委員会など下院の3委員会はすでに、ボルカー対ウクライナ特別代表ら国務省の高官5人に対し、宣誓証言に応じるよう召喚状を出した。ホワイトハウスは議会の召喚には徹底的に抵抗する構えで、トランプ大統領は疑惑を完全否定し、「でっち上げ」「魔女狩り」と反発している。