「チベット問題が、国際社会において大問題として認知されているのに比べて、われわれウイグル人の問題はほとんど知られていません」
先週、チベット亡命政府のロブサン・センゲ首相ともに、東京で開催されたシンポジウムに出席した、世界ウイグル会議(亡命ウイグル人組織、本部ミュンヘン)事務総長のドルクン・エイサ氏はこう訴えた。
チベットで、三十余名もの焼身抗議が起きたことは、私自身、本コラムでも幾度も伝えてきた。が、同時に、チベットの北に位置するウイグル地域(現在の新疆ウイグル自治区)で起きてきた、ウイグル人に関する事件については本コラムでもほとんど話題に上ることはなかった。
ところが、そのウイグル情勢に今後大きな影響を与えるか、と思われる国際ニュースが昨日来、続けて伝わってきている。ひとつは、インドとパキスタンの歴史的和解のニュース、もうひとつはトルコのエルドアン首相の新疆ウイグル自治区訪問のニュースである。
ウイグル情勢を探る際には、ウイグル人と中国当局との関係を見るだけでは十分ではない。国境を接しているパキスタンや、ウイグル人と民族的に近い中央アジア、トルコといった国々との国際関係を注視する視点を忘れてはならないのである。
アメリカによる「対テロ戦争」の
とばっちり受けるウイグル人
ウイグル問題を巡る国際関係の話に入る前に、ウイグル問題が、日本で、あるいは国際社会で、いま一つ知名度や共感を得られにくいことの理由に触れておく。理由はいくつかあるが、そのうちの重要な一つは、日本のメディアで、ウイグル人に関する事件が報じられる際に必ずついてまわるようになった「テロ」という言葉にあろう。
たとえば、昨年7月、ホータンで起きたウイグル人住民と中国当局との衝突事件の際、比較的長文で、中国当局と世界ウイグル会議側の発信情報の両方を伝えた産経新聞は、記事を次のように締めくくっている。
「専門家は、パキスタン国境に近く、住民の90%超をウイグル族が占める同市は、海外テロ組織の影響を受けやすいと指摘。今回の事件も、ウイグル族に対する弾圧強化の“口実”にされかねない」
最後は、「(当局の)弾圧強化の口実にされかねない」と弾圧に苦しむウイグル人側に寄った書き方となってはいるが、その前の「専門家曰く」の部分をあわせて読むと、それこそ、「パキスタン国境に近いウイグル人地域はテロの温床となりやすい」との印象を読者に与えてしまいかねない。
日本のメディアと日本人の多くが、ウイグル人の抗議行動を、短絡的に「テロ」という言葉と親和させてしまう現状は、2000年以降の国際情勢の動きと無縁ではない。9.11以降アメリカが強力に推し進めてきた、「テロとの戦い」という大キャンペーンの「とばっちり」をウイグル人が受けている、といっても過言ではないのだ。事実、アメリカ政府は、無実のウイグル人をあの悪名高きグアンタナモ米海軍基地のテロ容疑者収容所に送った経緯もある。