鳩山元首相のイラン訪問
外交音痴が招いたツケ


金子熊夫 (かねこ・くまお)  外交評論家・エネルギー戦略研究会会長

1937年愛知県生まれ。ハーバード大学法科大学院卒。70~80年代に外務省初代原子力課長。89年に退官後、東海大学教授を経て現職。著書に『日本の核・アジアの核』(朝日新聞社)などがある。

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ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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日本中の関心が、消費税増税問題や原発再稼働問題に集中している間も、世界では、イランの核問題をめぐる緊張の度が一段と高まっている。もしイスラエルがイランの核施設への先制攻撃に踏み切り、それをきっかけにホルムズ海峡閉鎖、さらに中東戦争勃発という事態にエスカレートすれば、世界的なエネルギー危機は不可避で、日本も到底無傷では済まない。

 米国のオバマ政権としても、11月の大統領選挙を控え、そのような危険なシナリオは是非避けたいところで、そのために必死の外交努力を続けている。一触即発、ちょっとした判断ミスが命取りになりかねない。

忠告を振り切った鳩山元首相 目的は「世界平和」

 そのような折も折、民主党の最高顧問(外交担当)の鳩山由紀夫元首相が、野田佳彦首相や外務省の忠告を振り切って、4月初めテヘランを訪問し、アフマニネジャド大統領と会談した。

 会談の正確な内容は知る由もないが、直後にイラン側が公式サイトで発表したところによれば、鳩山氏は、核不拡散条約(NPT)や国際原子力機関(IAEA)体制の不平等性とダブルスタンダードを批判し、イランの主張に理解を示したとされる。日本側の抗議により、この記述はサイトから削除され、駐日イラン大使館が鳩山氏に陳謝したそうだが、不審感は残る(イラン国際放送のサイトIRIBには4月16日現在、「鳩山氏は、イランをはじめとする一部の国に対するIAEAのダブルスタンダードは、不公平な態度だと述べました」との記載が残っている)。

 4月14日、地元の北海道苫小牧市内で開かれた民主党道9区総支部定期大会で演説した鳩山氏は、「元首相として世界平和に貢献したいとの思いで批判も覚悟して行動した」と釈明した(読売新聞、4月15日付)。

イランの思惑は日米間にクサビを打ち込むこと

 筆者は一般論として、大統領、首相、外務大臣などの経験者が在任中に培った人脈を生かして外交の分野で活躍するのは結構なことで、米国はじめ欧州諸国にはそのような例が多数みられ、日本の政治家も見習うべきだと日頃から考えている。

 だが、今回の鳩山氏の場合は、失礼ながら、あまりにもお粗末と言わざるを得ない。孤立無援に近いイランからすれば、日本の元首相の訪問は、まさにお誂え向きで、日米間にクサビを打ち込む絶好のチャンスと映ったのだろう。「世界平和に貢献したい」などという発想は、素人なら誉められもしようが、元首相がそれでは困る。

 帰国後の記者会見で鳩山氏は、「確かにNPT/IAEA体制は不平等だが、それでも日本はその枠内に入って原子力平和利用や核不拡散分野で一生懸命やっている。イランもそうしたらどうかということを訴えたかったのだ」と解説したそうだが、この認識も果たしてどの程度のものか疑わしい。

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著者

金子熊夫(かねこ・くまお)

外交評論家・エネルギー戦略研究会会長

1937年愛知県生まれ。ハーバード大学法科大学院卒。70~80年代に外務省初代原子力課長。89年に退官後、東海大学教授を経て現職。著書に『日本の核・アジアの核』(朝日新聞社)などがある。

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