「揺りかごから墓場まで」という標語。第二次世界大戦終戦後、イギリス労働党が掲げた福祉政策を表したもので、文字通り、生まれたときから死ぬまで、国が全ての国民に社会保障を提供するという意味です。福祉大国として知られるスウェーデンの基盤も、この社会民主的な政策にあります(ちなみに、スウェーデン語では「Från vaggan till graven」)。
しかし、いざスウェーデンに住んで、その実情に触れると、実際はこの政策にも限界の部分が多くあることが分かります。そして時に、この国のイメージが随分と一人歩きしているかのように感じるのです。
不況や高齢化で崩れる「高福祉高負担」モデル
例えば、高福祉と高負担のバランス。スウェーデンでもここ数年、世界の不況やEU危機の打撃を受けて失業率が高くなっており(今年3月時点、7.7%)、失業保険金や生活保護金を要請する国民が、若者や移民を中心に増えています。一方で高失業率や若者の就職難は同時に納税者の減少も意味しており、国家の財政に悪影響を及ぼしているのです。
それに加え、国民の高齢化も進んでいます。統計中央局(Statistiska centralbyrån)によると、今現在の65歳以上の人口は160万人で、全人口の18%。推定によれば、この数は50年後には270万人に増え、人口の約27%を占めるとされています。最高定年が今後も65歳のままであれば、2060年には国民の4人に一人が年金受給者になるのです。
国家の歳入が減り、片や歳出が膨れるスウェーデン。これまでの福祉水準を維持するためにも様々な対策が必要とされています。第5回目(年金制度)でもお伝えした、最高定年を75歳にまで引き上げようという首相の提案も、その一つです。また、近々一斉に定年を迎える「40年代世代」(日本の「団塊世代」と同様、1940年代のベビーブーム時代に生まれた世代)の人々は、これまで高額な納税をしてきたにもかかわらず、老後の介護費を一部自己負担しなくてはならなくなる、という見解もあります。
バラ色ではないスウェーデンの介護事情
スウェーデン福祉の中でも、高齢者介護を賞賛する記事や評判はよく見聞きしますが、現場に関わっている友人たちと話していると、事実と食い違うことが度々あります。たとえば、「北欧諸国には『寝たきり老人』がいない」というイメージがあるようですが、スウェーデンにもそのような高齢者はいると聞きます。よくよく考えてみると、年を取れば一日のうち長時間をベッドで過ごす人がいることは、不思議ではありません。しかし、スウェーデンの高齢者政策には、「出来る限り積極的な生活を営み、自らの自立性を維持することができる」という目標がありますので、そもそも日本で言うところの「寝たきり老人」という概念がないのは確かなようです。
日本で昨今問題になっている「孤独死」はどうか、というと、やはりスウェーデンでもそうした事件は起きます。核家族で暮らすことが、むしろ日本よりも当然の国。高齢者の突然死を在宅介護ヘルパーや親族が数日後に発見する、ということはあるのです。
「エーデル改革」 民営化の悪影響も
昨年秋に、スウェーデン社会に衝撃を走らせた「Caremaスキャンダル」という騒動も、福祉大国のイメージを覆すものでした。