チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年6月11日

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 6月8日、中国西南地域の最大都市である重慶市で「重慶市民営経済発展大会」という会議が、市の共産党委員会と市政府の共催で開かれた。大会では100名ほどの民営企業経営者が「市の経済発展に貢献した」功績を表彰され、「優秀民営企業家」の称号を与えられた。

 会議の冒頭では、重慶市共産党委員の書記であり、国務院副総理でもある張徳江氏が発言した。彼は、「旗幟鮮明にして民営企業と企業家の合法的権益を守ろう」と訴え、同時に、会議参加の民間経営者たちに対して、重慶市としては今後「法治体制をさらに健全化して民営企業家の財産権を守る」ことを約束した。

薄煕来時代は富裕層にとって「受難の時代」

 本来なら、「資本主義の撲滅と共産主義の実現」を党是とするはずの共産党の幹部が、「旗幟鮮明にして」民営企業を守り、そして資本主義の根幹をなす「企業家の財産権」を守ることまで宣言しているのは、いかにも現代中国のとてつもないいい加減さを象徴しているような場面である。しかし、このような「宣言」が行われた背景にあるのは当然、張氏の前任である重慶市前共産党書記の薄煕来氏の暗影である。

 今年の3月まで、重慶市共産党トップとして在任した4年余、薄氏は黒社会撲滅運動(打黒)と毛沢東時代の「革命歌謡曲」を歌うキャンペーン(唱紅)を展開し、貧富の格差の拡大や腐敗の蔓延などに対する民衆の不満を和らげるための諸政策を独自に講じてきた。

 その結果、民衆における「薄煕来人気」が高まり、彼はいつの間にか「民衆の声を代弁するカリスマ政治家」という名声を得るに至った。だが、「持たざる者」からの支持を得たそれらの政治運動と諸政策が推進されていく中で、重慶市の「持てる者」たち、すなわち民営企業の経営者たちの多くは、逆に酷い目にあった。

富を「持てる者」から「持たざる者」へ

 特に「黒社会撲滅運動」においては、多くの民間経営者が「黒社会そのもの」、あるいは「黒社会とつながるもの」として逮捕され、裁判にかけられ、財産を没収された上で刑務所入りの憂き目を見た。4年余の「薄煕来時代」は、重慶市の貧困層や一般庶民にとっては「幸福の時代」だったかもしれないが、富裕層の民営企業家たちにとっては、まさに「受難の時代」であった。

 そういう意味では、薄氏が重慶で行なっていたことは、むしろ共産主義の理念に基づいた共産党の伝統的政策への回帰なのである。要するに彼は、「持てる者」から富を奪って「持たざる者」を救済しようとしているのだ。それは、中華人民共和国の創始者である毛沢東たちが「共産主義革命」時に行なったことと同じである。

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