うつ発症者にみられる
感情調整力の弱さ

お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科
岩壁茂准教授に聞く


海部隆太郎 (かいべ・りゅうたろう)  ジャーナリスト

日本工業新聞記者、IT企業の広報部長を経て、現在フリージャーナリストとして活躍。

うつ病蔓延時代への処方箋

うつ病対策が叫ばれているが、減少する兆しは見えない。うつ病蔓延の原因は不景気の影響や豊かさの中での愛情の欠如など、多様な背景があげられるが、定かではなく、証明できるものもない。こうした状況を踏まえ、うつ病患者の実態と対策、予防策について、あらゆる角度の専門家たちにインタビューする。

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うつ病を発症しやすい人と、そうでない人との差は何か。言い換えると、どのようなタイプの人がうつ症状に陥りやすいのだろうか。ストレスを溜めこむ人、コミュニケーションの苦手な人などといわれる。もちろん断定することはできない。それよりも、もっと本質的な資質があるのではないだろうか。うつ病が増える社会的要因を含め岩壁茂・お茶の水女子大学大学院准教授に聞いた。

岩壁茂(いわかべ・しげる)
神奈川県横浜市生まれ。1991年早稲田大学政経学部卒業。2001年マッギル大学(カナダ)カウンセリング心理学科博士課程修了。同大非常勤講師、札幌学院大学助教授を経て2004年から現職。心理学博士。臨床心理士。研究テーマは「心理的健康における感情の役割(特に、恥、罪悪感などの自意識感情)」、「産業におけるメンタルヘルス」など。共著に『臨床心理学入門 —多様なアプローチを越境する』(有斐閣)。主な著書に『はじめて学ぶ臨床心理学の質的研究』(岩崎学術出版社)など多数。

喪失、屈辱、罠がうつを招く

 ―― 心理学者として大学で教鞭をとられる傍ら、臨床心理士としてうつ病患者へのカウンセリングを行っていますね。人の心の傾向性などをみている立場で、近年増え続けるうつ病の要因をどのように分析されていますか。

岩壁:英語でうつ病はDepression(ディプレッション)と言いますが、この言葉には経済の長期不況という意味も含まれています。言葉だけをとらえてみれば、うつと経済問題は関連があるようにみえます。確かに現象として符合する面があります。

 今の日本は、経済が成長しない状況下で、自分の立場が脅かされるという不安を抱きながら仕事をしている人が多い。しかも、努力に対する見返りも少ない状態が長く続いています。これでは心理的に疲弊してしまいますね。このような不安感の蓄積が、うつ症状をもたらす大きな要因としてとらえられると思います。

 英国での研究を紹介します。これは1990年から2000年にかけて実施した調査に基づくもので、うつ病を引き起こすライフイベントは3つあるという報告です。

 最初がloss(喪失)です。大切な人を失う辛さや、夢、希望を失うことなども含まれます。次にhumiliation(屈辱)です。リストラは屈辱的ですし離婚も当てはまります。他人は裕福なのに自分だけ貧しいと思うこと、これも社会的な比較から起こる小さな屈辱といえます。最後がentrapment(罠にかかる)です。この仕事は大嫌いだが、住宅ローンがあるし家族を支えなくてはならない。転職したら今の給与はもらえない、苦しいけど辞められない、など身動きができない状態です。

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「うつ病蔓延時代への処方箋」

著者

海部隆太郎(かいべ・りゅうたろう)

ジャーナリスト

日本工業新聞記者、IT企業の広報部長を経て、現在フリージャーナリストとして活躍。

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