東大教授 浜野保樹のメディア対談録

2009年7月2日

これまでのお話
風景のとらえ方における日本人らしさとその伝統、「家族」がもつ昔も今も変わらないポテンシャル…「サマーウォーズ」をめぐる対談は歴史の深みを探りつつ「日本を、もっと」考えさせるものに。ところでアニメーション映画をつくるとはどういうことか?

アニメをつくるということ

サマーウォーズ(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

司会 ここでおしまいにしてもいいんですけど、あと10分ぐらいいただいて、普通の人は知らないことをちょっと教えてほしいんです。それは、アニメの監督とは一体何をする人なのかということが一つです。そして、このアニメの作業工数はどのぐらいのものなのかと。何人ぐらいがどのぐらいかけてつくるものなのかと。それを日本ではこんなふうにマネージしているんだけど、本当はこうあってほしいんだとか、そういう話をちょっとしていただいて。

細田 はい。この「サマーウォーズ」という映画を例に取ると、企画から今年の夏完成というところも含めて、3年かかっていると思います。「時をかける少女」が終わった直後から今まで、ずっとこの映画の準備しかしてきませんでしたので、3年かかりました。

それで、映画をつくる上で、アニメーションという手法を使ってどういう映画が語り得るかを最初考えながら、それを少しずつ形にしていく。そして、本当にその最後の完成まですべて見届ける。何というか、その過程にずっと、べったり付き合っていくというのが、ものすごく大ざっぱに言って監督の仕事だと思います。

それで、毎度つくるたびに思うんですけれども、つくっている上では、スタッフが今回300~400人くらい。今回特に大家族並みにたくさんスタッフがいて、エンドロールに入れる名前も多くて大変ですが、やはり彼ら一人一人の心意気によってできていると思うんです。

この映画の予算規模からして、経済的にこの期間の仕事に報いるお金を、スタッフ一人一人に十分分配できない状況があるけれども、「いい作品にしたい」という心意気が映画を成り立たせてくれているんだと思います。本当に一人一人の。だから、マネジメント的に言うと、実はその心意気に、いつか経済的に応えたい。だからこの映画を皆さんに見ていただいて、それで、次の映画をつくる資金が出る、出資者の方も、出そうという判断をしてくれるくらいになればいいなと願っています。

そうやって少しずつ、心意気でやっている部分に対して、スタッフたちに報いていけたらなというふうな…。今は本当にせめて内容というか、やって良かったなという気持ちぐらいしか僕には返すものがないんだけれども、将来の希望としては、少しずつ、予算規模を少しずつ大きくしていって、その中で心意気に応えたいと思います。

司会 それは、日本人の働かせ方・働き方というものに関してとても示唆的ですよね。何のために自分は働くのかといったら、もちろんお金のためだし、家族を養うためなんだけれど、それだけでは満足できない何かがあって、そして、それだけで満足できない人がたくさんいる集団であればあるほど、やはりいいわけですよね。多分一時期のソニーとか、日本企業草創期の人たちにはそういうのがあったんでしょうね。アニメの世界は、今の監督の話から想像する限り、若い人も含めて、そういう人がまだたくさんいるんですか。

一人ひとりの気持ちが高まらないとつくれない

細田 ええ。そうだと思います。例えばこうやってお話ししていると、監督が作品をつくっているようにみんな思っちゃうんですけど、当然そんなことはなくて、本当に一人一人の気持ちが高まっていかないと、ある種の表現の域に達しないと思うんです。というのは、本当に「心意気」としか言いようのない、一人一人の頑張りがこの映画を形づくっているのであって、それを僕は、監督だからこうやってしゃべっていますが、本当に単にスポークスマンでしかないですので…。みんながいるからこそできることだと思います。でも、今回の映画は誰か一人の主人公がいて、その人が全体を引っ張っていくというものではないんです。家族みんなが力を合わせる物語ですから、映画づくりの現場と図らずも写し絵みたいになりました。

司会 確かに今度の映画は登場するみんなが見せ場を持っていて、「ここで決める」という場面がそれぞれにありますよね。

細田 そうですね。すごくそれは、アニメーションというか、映画をつくっていく一人一人のものと思想的にすごく似ていると思います。自分でも本当にそう思います。

最後まで粘った美術監督

司会 なるほど。

細田 だからエンドロールを眺めていると、本当に300人の家族だったんだ、と、ちょっと感傷的ですけど、思ったりするぐらいみんなの力の出し方が半端じゃないですので、それに関しては本当にもう……。

浜野 最後のエンドロールのところ。山下達郎さんの歌なんですって?

細田 ええ。オリジナルでつくっていただくことに。すごくキュートで、爽やかな歌なんだけど、爽やかさの中にあらゆるものを包むような、とってもすてきな歌ですね。
山下達郎さんに曲をつくってもらえるなんて、こんな光栄なことはないなというふうに思いますね。今、実は歌をエンドロールに当てているところで、もうちょっとで本当に完成されたものが出てくるところですけれども、すごく楽しみなんですよね。

浜野教授にサインする細田監督

浜野 初めてじゃないの? 書き下ろしでそんな。

細田 ああ、そうですね。達郎さんも(アニメ映画は)初めてだとおっしゃっていました。この映画を事前に資料などで見ていただいて、気に入っていただいていて、それもとても光栄ですし。

司会 それにしても、今回もまた、記憶に残る、網膜に残る景色というのがありますね。

細田 そうですね。景色で言えば今回、美術監督は武重洋二さんという、宮崎駿監督作品の美術監督をもう何作もやられた方にお願いしました。
自分にとってももう憧れの美術監督なんですけれども、その武重さんとも一緒に仕事ができて、それで、この家族の風景を一緒につくっていけたというのは、とても幸せなことだと思いますし、風景で物語るということが武重さんの力によってとてもできたと思います。
見ていただいたラッシュ版では景色がまだ埋まりきっていない箇所がたくさんあったと思いますが、最後の最後、ぎりぎりまで一人で粘って、うちに帰らなくて、武重さんも。

浜野教授(左)と細田監督(右)、司会役を務めた谷口教授(中左)、編集部西田(中右)

司会 細田さん、浜野さん、有難うございました。
 

<取材協力>
株式会社マッドハウス
日本テレビ放送網株式会社
株式会社角川書店
ワーナーエンターテイメント ジャパン株式会社

 


 

 

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