東大教授 浜野保樹が語るメディアの革命

2009年7月4日

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浜野保樹 (はまの・やすき)

東京大学大学院新領域創成科学研究科教授

1951年生まれ。工学博士。コンテンツ産業や制作に関する研究開発に従事する。主な著書に『大系 黒澤明』(講談社)『偽りの民主主義』(角川書店)『表現のビジネス』(東京大学出版会)などがある。(財)黒澤明文化振興財団理事、文化庁メディア芸術祭運営委員ほか。

 日本のアニメーションの「ファンサブ」のメンバーに次のような質問をしたことがある。

 「中国の若者の多くが、ファンサブで日本のアニメーションを見ているのですか」
その答えはこうだった。

 「いいえ、多くではなく、字幕が入ってないのを含めると100%インターネットで見ています」

 ファンサブとは、その名の通り「ファン」(愛好家)が海外作品に著作権者に許可なく自国の「サブ」タイトル(字幕)を入れることであり、中国語では「字幕組」という。

 1970年代の初頭、アメリカで日本のアニメーションに字幕を入れてビデオの違法交換を始めたのがファンサブの始まりとされているが、インターネットで映像流通が誰にでも可能となったため、ファンサブの違法配信は爆発的に拡大し、著作権者に致命的な被害を与えるようになっている。

 ファンサブは、ファンが好きな作品を多くの人に見せたいという動機のもとに行っているため、利益を目的とせず、無料である。そのため有料の海賊版ビジネスモデルを崩壊させたといわれている。国際レコード連盟(IFPI)は、毎年「海賊版レポート」を公表していたが、2006年を最後に公表されなくなったのも、そのせいかもしれない。ちなみに、「海賊版レポート」では、中国での音楽の海賊版率は常に90%前後であったため、先のファンサブのメンバーの「100%」というのも、あながち誇張ではないかもしれない。

 各国にファンサブは存在するが、視聴人口の多さで中国のファンサブが抜きん出ている。たまたま字幕組のメンバーである若者と知り合う機会があり、その実態についてインタビューを行うことができた。以下に、その概要を紹介するが、一人の意見をもとにしているため情報に偏りがあるかもしれないことを、お含みいただきたい。

中国の字幕組事情

 中国では表現規制と検閲が厳しいため、海外作品が中国に正式には公開されなることなく終わったり、公開までに時間を要することが多い。早く見たいと思うファンの要望に対応して海賊版ビジネスが成立していたが、インターネットの普及により、自主的集団でより早く海外作品を見られるようにしたのが字幕組である。またファンは吹き替えより、オリジナルを見たいというニーズにも対応していた。

 日本のアニメーションだけでなく、ハリウッド映画、「24」などのアメリカのTVシリーズ、韓国TVドラマなど、分野ごとの字幕組が中国には存在する。日本アニメーション専門の字幕は20以上あり、翻訳の水準と、どれだけ早くインターネット上にアップするかの早さを競い、現状では5つくらいの字幕組の人気が高い。

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