化石燃料の輸入増が貿易赤字を加速させ日本経済が厳しい苦境に立たされるなか、「石炭火力」による電源構成比を高めることで新たな活路が見えてくるのではないか。気鋭のエコノミスト、永濱利廣氏がニッポン経済再生への期待を胸に訪れたのは、「大崎クールジェン」発電プラント建設現場。瀬戸内海に浮かぶ風光明媚な離れ島で「究極の石炭火力」への挑戦が始まっていた。
高まる石炭のプレゼンス
日本の経済成長にも貢献
第一生命経済研究所の主席エコノミスト、永濱利廣氏と本誌取材班は11月下旬のその日、永濱氏が都内での講演を終えるとその足で羽田発広島行きの最終便に飛び乗った。かねてから注目していた日本の石炭火力発電の未来を占う、世界最先端の実証試験プラントを視察する機会が得られたからだ。
東日本大震災以降、原子力発電所が長期停止を余儀なくされるなか、ただでさえ自給率が低い日本のエネルギー事情はますます逼迫している。発電燃料を確保するため「ジャパンプレミアム」と呼ばれる高値で取り引きせざるを得なくなった液化天然ガス(LNG)などの輸入増が、円安傾向とも相まって日本の貿易収支を悪化させ、2013年の赤字額はついに14兆円に迫り2年連続で過去最大を更新した。この事態を少しでも改善するには、もともとLNGや石油に比べて価格が低く、シェールガス革命による米国内での需要低下を引き金に急速に値を下げている石炭にこそ目を向けるべきではないか。実際、イギリスやドイツなど欧州諸国では廉価な米国炭の流入で石炭火力発電が拡大傾向にある。しかも、石炭は政情安定国を中心に世界中に広く分布するため安定供給も可能なのだ。
そんな思いを巡らせながら永濱氏が広島空港から向かった先は、瀬戸内海の中央に浮かぶ大崎上島。竹原港の南方海上約10キロに位置するこの島からさらに橋を渡した長島に、その大掛かりな発電プラントが建設途中の無骨な雄姿を覗かせていた。中国電力(株)大崎発電所の構内に位置するこの設備が完成すると、「石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)」と呼ばれる石炭を使った究極の高効率発電技術と、二酸化炭素(CO2)分離回収技術を組み合わせた革新的な低炭素火力発電の実現に向け、世界的にも注目度が高い実証試験の幕が切って落とされることになる。
拡大画像表示
「発電燃料としての石炭の価値が見直されているのは、価格が安くて安定していることだけが理由ではないでしょう。石油やLNGの約2倍、この先まだ100年分以上の埋蔵量があると聞いていますし、この大崎のように発電効率や環境性能を飛躍的に高める先端技術の開発も進んでいます。発電効率が上がればそれだけ石炭の使用量が減るわけだから、経済的にも環境的にもメリットは大きい。日本がそのトップランナーの座に着けるのであれば、経済成長にも大いにプラスに働くはずです」(永濱氏)