育ちはじめた農業経営のプロ

国は余計なことをするな


昆 吉則 (こん・きちのり)  『農業経営者』編集長

1949年神奈川県生まれ。農機業界誌編集を経て、87年に株式会社農業技術通信社設立。93年に日本初の農業ビジネス誌『農業経営者』を発刊。

WEDGE REPORT

ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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今年2月、筆者が発行する月刊誌『農業経営者』の読者とともにロシア沿海州を訪ねた。新潟から空路1時間半のウラジオストックから車で3時間。そこには広大な水田地帯が広がっている。緯度は稚内と同じ北緯45度だが、夏の気温と日照に恵まれたコメ栽培の適地である。中国の黒竜江省と国境で隔てられたハンカ湖周辺である。

 我々はそこで、日本人の農業経営者たちが、日本の良食味品種を、田植えがいらない乾田直播という低コスト技術でコメ作りに取り組むことを目指している。Made by Japaneseで、市場はアジアである。

 ロシア人の女性と結婚し、沿海州に約8000ヘクタールの農地を持ち、そこで大豆やコーンの生産をするニュージーランド人経営の農場を日本商社の紹介で知った。その農場では約400ヘクタールの水田も所有しており、そこで経営実験に取り組むべく話を進めていたのだ。

 ところが、同農場が韓国のヒュンダイ財閥に買収され、我々の計画は頓挫してしまった。大豆、コーンの調達のため日本商社が同農場に出資をする交渉を進めていたが、韓国側は日本商社より桁違いの好条件を提示し、農場を買収してしまった。我々も諦めたわけではないが、アフリカのマダガスカルへの進出など、海外での農業生産に国を挙げて取り組んでいる韓国と我が国の意気込みの違いを痛感させる体験だった。

 また、昨年の3月には中東ドバイを訪ねた。7ツ星ホテルを自称するバージュ・アル・アラブを含め、同地の卸業者やスーパーマーケット、レストランなどに読者農家の農産物を売り込むためである。しかし、そこでも日本国政府の農業海外展開への戦略性のなさを目の当たりにした。

農水省の輸出促進事業の一環としてドバイの高級スーパーに陳列される日本の農作物
(写真提供:農業技術通信社)

 読者農家の一部も出展した湾岸地域最大の食材展示会「Gulfood」。しかし、農林水産省肝煎りの同展日本館の展示の情けなさ。日本よりはるかに大きな規模で出展していた中国館や韓国館では、自国の農産物が適正な工程管理の下に生産されたものであることを示すGAP(Good Agricultural Practice)認証の産品であることを明確にしているのに対して、日本館は相も変らぬ“桜・富士山・芸者”。

 そしてもうひとつはUAEを代表する高級品スーパー「スピニーズ」に日本の農水省が設けている常設コーナーのことだ。スピニーズのバイヤーはこう話していた。

 「日本の食材の品質の高さは分かる。でも、我々は棚代を貰っているから問題は無いが、これでは日本の農産物が高いということを宣伝しているようなもの」。

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著者

昆 吉則(こん・きちのり)

『農業経営者』編集長

1949年神奈川県生まれ。農機業界誌編集を経て、87年に株式会社農業技術通信社設立。93年に日本初の農業ビジネス誌『農業経営者』を発刊。

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