WEDGE REPORT

2009年9月1日

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 「日本メーカーのコンバインは丈夫で性能も良く、昔なら1カ月かかっていた稲の刈取りが2~3日で終わり、その間に出稼ぎに行けるようになった」。中国の農村事情に詳しい早稲田大学准教授の阿古智子氏は、日本メーカーのコンバイン(水稲の刈り取りや脱穀の際に使用)を愛用する湖北省の農家からこのような嬉しい悲鳴を聞いたという。

 日本メーカーの農機を求める声が、中国や東南アジアのあちこちから聞こえている。欧米向けの小型トラクターを中心に海外展開を進めてきた日本の農機メーカーが昨今、国内で培った高い技術力を武器に、かつてないほどの勢いでアジアへの進出を加速させているのだ。

 ヤンマー(大阪市)取締役農機戦略部長の河盛一彦氏は将来の見通しについてこう述べる。「アジア市場は今後、日本企業の参入が加速し、中でも最大の注目市場が中国となるだろう」。同社は1994年、日本の農機業界初となる中国への進出を果たし、98年5月には江蘇省との合弁会社「ヤンマー農機(中国)有限公司」を設立、コンバインの現地生産を始めた。今後は中国市場での旺盛な需要に対応することなどにより「農業関連事業の海外売上比率を現状の20%から中長期的には30%までに引き上げたい」(河盛氏)という。

 井関農機(愛媛県松山市)もヤンマーと同じく江蘇省に03年6月、「井関農機(常州)有限公司」を設立、これまでコンバインと田植機を生産してきたが、今年の8月には中国の農機メーカー「中機北方機械有限公司」(吉林省)に同社のコンバインの生産・組立技術を供与し、生産を開始。東北地方での優位性を確保する考えだ。同社経営企画部IR・広報室長の富久誠氏は「昨年度の中国での売上高は対前年146%の19億円と、現地での販売開始以降、堅調に伸び続けている。近い将来、中国での売上高が北米を追い抜く可能性も見えてきた」と中国市場の成長性に大きな期待を寄せている。

 国内最大手のクボタ(大阪市)はどうか。同社代表取締役専務執行役員・機械海外本部長の富田哲司氏は他社との違いをこう強調する。「(中国という)特定の国ではなく、アジアというリージョンを見ている。今後は、中国やタイのみならず、インドやベトナムにも力を入れ、中国からタイ、タイからインドへの輸出入など、アジアの中で相互補完関係を構築し、アジアでの農機の総合メーカーを目指す」。壮大なビジョンを描く同社は昨年、ベトナムとインドに矢継ぎ早に現地法人を設立し、農機販売を行うなど、将来の発展に向けて着々と布石を打ち始めている。

好調な海外市場とは裏腹に…

 無論、中国への戦略も忘れてはいない。98年4月に設立した、コンバインや田植機の生産拠点「久保田農業機械(蘇州)有限公司」(江蘇省)に08年8月より、トラクター部門を新設。中国の現地メーカーが販売台数の約9割を占めるといわれている市場に攻勢をかける。

 13億人の人口を抱える中国にとって、農業の機械化によって生産性をアップさせることは、食糧安全保障の観点から極めて重要だ。そのため、農機購入に対する補助金はここ数年、うなぎのぼりに増えている。04年には1億元(約15億円)にも満たなかった中央政府からの補助金が、08年には40億元、09年には130億元を超えると見られている。加えて各省・各県の補助金も別途あるから日本の農機メーカーにとっても追い風だ。

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