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2015年7月1日

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大崎貞和 (おおさき さだかず)

野村総合研究所未来創発センター主席研究員

野村総合研究所未来創発センター主席研究員。東京大学大学院法学政治学研究科客員教授、早稲田大学大学院商学研究科客員教授。1986年東京大学法学部卒業、同年野村総合研究所入社。90年ロンドン大学法学大学院、91年エディンバラ大学ヨーロッパ研究所にて、それぞれLL.M(法 学修士号)取得。 <主な著書>『解説金融商品取引法』(弘文堂)、『金融構造改革の誤算』(東洋経済新報社)、『インターネット・ファイナンス』(日本 経済新聞社)、『公開会社法を問う』(共著、日本経済新聞社)。

 日本の株式新規公開(IPO)市場は、2000年代前半に活況を呈し、「大公開時代」などと囃された。この時期は、毎年100社から150社がIPOを行い、2000年のドットコム・バブル崩壊でIPO社数が極端に減ったアメリカを上回った年すらあった。その原動力となったのは、1999年6月のナスダック・ジャパン構想発表と同年11月の東証マザーズ市場の開設を契機に始まった、国内の取引所間の激しいIPO誘致競争であった。

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 このIPOバブルとも言うべき状況は、2006年をピークに大きく変化した。2006年1月のライブドア社に対する粉飾決算容疑での強制捜査は、ライブドア・ショックと呼ばれる株式市場の混乱を引き起こした。

 その後も、ベンチャー企業による粉飾決算等の不祥事摘発が相次いだ。2008年1月には、名古屋証券取引所が新興企業向け新市場セントレックスへの上場審査をめぐって十分な審査を行っていない不備があったとして金融庁による業務改善命令を受けるなど、取引所間競争の行き過ぎも露わになった。

 そこへ2008年9月のリーマン・ショックとそれに伴う経済の低迷が追い打ちをかけ、2009年には、東証マザーズ、ジャスダック、大証ヘラクレス(旧ナスダック・ジャパン)の新興企業向け3市場のIPO件数が合計で13社にとどまるまでに落ち込んだのである。

 こうしたIPO市場の不振の一因として、証券会社による引受審査や取引所による上場審査が過度に厳しくなっているといった事情があるのではないかといった指摘もなされたが、2010年以降、IPO件数は徐々に増加に向かった。今年2015年のIPO件数は、100社に迫る見通しで、6年連続の増加ということになりそうである。しかも、この半年のIPO銘柄の多くが、市場で形成される初値が株式の公募価格を大幅に上回っている。

 その一方で、今年3月末には、東証を運営する日本取引所グループの斉藤惇CEO(当時)が、一部のIPO企業が市場不信を招いているとして、上場審査の強化や上場時における業績予想の前提条件の開示要請などの緊急対策を発表した。その背景には、高い成長性を期待されてIPOを行った注目企業が、上場直後に赤字転落予想など、業績予想の大幅な下方修正を発表して株価が急落するといった事態が相次いだという事情があった。

 もっとも、こうした取引所の厳しい姿勢に対しては、戸惑いを感じている市場関係者も少なくない。確かに、明るい業績の見通しに注目して投資した会社が、業績予想を下方修正すれば、投資家が大いに失望するのは当然だろう。

 しかし、そもそも東証マザーズなどの新興企業向け市場でIPOを行う会社は、それほど実績のないベンチャー企業である。将来へ向けた事業計画があり、その成功への期待が株価を押し上げるのだが、思惑通りに事業が展開するとは限らない。

 とりわけ、最近目立つネット関連ビジネスでは業績の的確な予想は非常に難しい。実際、業績予想の大幅な下方修正が批判を浴びた代表例とも言えるgumiは、ゲームコンテンツの提供事業を展開しており、新コンテンツが思ったようにヒットしなければ、業績が急激に悪化するという構造を抱えていた。

 もちろん、経営陣が意図的に高めの業績予想を発表して公募価格や初値をつり上げ、上場後に自分達は高値で売り抜けた上で下方修正するというような明らかな不正が行われれば深刻な問題だが、誠実に作成した予想が達成できそうになくなった時、市場の厳しい反応を覚悟で早期に下方修正することは、むしろ、タイムリーな情報開示という観点からは誉められるべきこととすら言えるかも知れない。

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