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2015年7月7日

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吉富望 (よしとみ のぞむ)

日本大学危機管理学部教授

1983年に防衛大学校を卒業し、陸上自衛隊に入隊。野戦特科部隊勤務および陸上幕僚監部、防衛省情報本部、防衛省内局、内閣官房内閣情報調査室等の勤務 を経て2007年から第1地対艦ミサイル連隊長、2009年から防衛大学校教授、2013年から陸上自衛隊研究本部総合研究部第1研究課長、2015年4 月に陸上自衛隊を退官(退官時の階級は陸将補)し現職。主たる研究分野は、アジア太平洋地域の安全保障、陸上自衛隊の態勢、自衛隊(軍)による人道支援・災害救援、民軍連携。

【学歴】1983年3月 防衛大学校(国際関係論専攻)卒業。2006年3月拓殖大学大学院国際協力学研究科修士課程修了。修士(安全保障)。2013年3月  拓殖大学大学院国際協力学研究科博士後期課程単位取得退学。
 

 米国のシンクタンク「戦略・予算評価センター」のアンドリュー・クレピネビッチ所長が「中国をいかに抑止するか:第1列島線防衛の場合(How to Deter China: The Case for Archipelagic Defense)」と題する論文をForeign Affairs誌の2015年3月/4月号に寄稿した。

iStock

 クレピネビッチは「エアシー・バトル(AirSea Battle)」を提唱して米軍に強い影響を与えた人物であり、今般提唱した「第1列島線防衛」も米軍に何らかの影響を与える可能性がある。この論文でクレピネビッチは、有事における中国軍の西太平洋進出を阻止する上で、南西諸島から台湾、フィリピン、ベトナムに至る第1列島線の防備を固めることの重要性を説き、その際には米国および第1列島線諸国の陸上戦力が大きな役割を担うことを強調し、特に陸上自衛隊に強い期待を寄せている。

なぜ陸上戦力が求められるのか?

 中国軍は、米軍による中国本土への接近や中国周辺での活動を妨害する「接近阻止/領域拒否(anti-access/area-denial: A2AD)」のためにミサイル、航空機、潜水艦、水上艦艇等の配備を進め、海上・航空優勢を確保し得る範囲を西太平洋まで拡大しようとしている。

 エアシー・バトルも第1列島線防衛も、中国に武力行使を諦めさせる効果(抑止効果)を狙いとしているが、その方法(力点)が異なっている。エアシー・バトルでは、米軍が中国本土への空爆などの反撃能力および海上封鎖能力を強化することで中国を抑止する「懲罰的抑止」に力点を置いている。

 一方、第1列島線防衛では「懲罰的抑止」を維持しつつ、米軍および第1列島線諸国の軍が第1列島線において中国の海上・航空優勢を拒否し、西太平洋への進出を阻止する能力を強化することで中国を抑止する「拒否的抑止」に力点を置いている。

2009年版米国防省「中国の軍事力報告」から引用し、著者が加筆修正

 では、誰が第1列島線で中国軍を阻止するのか。クレピネビッチは第1列島線周辺における中国の海上・航空優勢を拒否する役割は総じて地上戦力によって達成可能と主張する。

 この主張の背景には二つの認識があると考えられる。第一に、中国軍のA2ADによって第1列島線周辺における米軍および第1列島線諸国の海上・航空戦力のプレゼンスが低下するとの認識である。

 第二に、陸上戦力はA2AD環境下でも第1列島線で健在し、中国軍に対抗できる能力を持ち得るとの認識である。若干の説明を加えよう。

 中国軍は多数の弾道・巡航ミサイルを保有しており、有事には第1列島線に所在する航空基地に対して大規模なミサイル攻撃を行うと考えられている。その場合、米軍や第1列島線諸国軍の航空戦力は、こうした攻撃で早期に壊滅することを避けるため、ミサイル攻撃等を受けにくい第2列島線の航空基地に退避し、そこから第1列島線付近に飛来して作戦を行うこととなる。

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