WEDGE REPORT

2015年12月21日

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村中璃子 (むらなか・りこ)

医師・ジャーナリスト

医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

 声明が暗に「エビデンス薄弱」と一蹴した日本の「HANS(=ハンス、子宮頸がんワクチン関連神経免疫異常症候群)」なる疾患も、CRPSやPOTSと同様、疾患概念としての妥当性に乏しい。HANSは2014年から一部の日本人医師が唱えている疾患概念で、子宮頸がんワクチンが、慢性の痛みや疲労感、けいれんや運動障害、月経異常や自律神経障害、髄液異常などありとあらゆる症状を引き起こすというものだ。「症状からして免疫異常による脳神経障害としか考えられない病態」であるとするが、科学的エビデンスはない。HANSはさらに、ワクチン接種から何年経っても発症し、いったん消えた症状は何年経ってからでも再発することがあり、場合によっては100以上の症状が重なることもあるというから、関連性のない症状の集合体にただ名前を付けているだけの可能性が高く、疾患概念としての曖昧さはCRPSやPOTSの比ではない。

 前回の声明にあった「生物学的・疫学的裏づけのない、症例の観察に基づく薬害説を懸念する」という記述や、今回の声明にある「子宮頸がんワクチン接種後に起きたという、診たことの無い症状に出会った臨床医は、速やかにそれらの症状を診た経験のある医師たちに紹介することが推奨される。それが患者への有害で不必要な治療を防ぎ、患者の日常生活への復帰を早める」という記述は、日本に直接言及したものではないが、日本を念頭に置かずに書かれたものとは考え難い。

日本のメディアはこれでいいのか

 東京大学教授の坂村健氏は奇しくも声明が出たのと同じ12月17日、毎日新聞の紙上で、新しいワクチンと同様に分からないことの残る放射能の人体への影響と報道の在り方についてこう語っている(記事リンク)。

「事態がわからないときに、非常ベルを鳴らすのはマスコミの立派な役割。しかし、状況が見えてきたら解除のアナウンスを同じボリュームで流すべきだ」

 筆者は名古屋市の調査を取り扱った12月17日の記事で、主要メディアまでもがセンセーショナルな発言でメディアに露出したがる専門家や圧力団体の主張に大きく紙面を割く、ガラパゴス化した日本のジャーナリズムについて書いた。子宮頸がんワクチン問題においても同様に、国内外の信頼ある専門家や専門機関の声にきちんと耳を傾け、坂村氏の言う「解除のアナウンス」のボリュームを少しずつ上げていくことはできないのだろうか。

 国際機関の諮問する専門家が「エビデンス薄弱」とする有害な主張ばかりを取り上げ、日本だけが名指しにされた国際声明を一切取り上げないというメディアのあり方は嘆かわしい。

 圧力団体と共依存する数名の医師の限られた経験と印象から導き出される「学説」は劇場的でメディア好みかも知れないが、「医学」とは数多くの医師によって蓄積された厚みのある臨床の知見と客観的なデータに基づくものである。声明は、医学ではなく世論に寄り添う日本の政策決定に批判の目を向ける形となったが、世論をつくるメディア関係者にもグローバルな視野と科学的冷静さをもつことを呼びかけたい。

【特集】子宮頸がんワクチン問題

  
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