シリア和平決議は“ガラスの合意”
アサド氏の処遇など問題山積


佐々木伸 (ささき・しん)  星槎大学客員教授

共同通信社客員論説委員。ベイルートやカイロ支局長を経て外信部副部長、ニュースセンター長、編集局長などを歴任。

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過激派組織「イスラム国」(IS)の暴力が吹き荒れるシリア内戦の終結を目指す国連安保理決議が採択された。だが、決議で記された計画通りに和平の動きが進むのはまず不可能だ。なによりも最大の争点であるシリアのアサド大統領の去就については一切触れておらず、すぐにも壊れかねない“ガラスの合意”だ。

失敗は折り込み

 今回の決議は、11月のウイーンで行われた多国間外相協議で合意した和平案を追認する内容。決議前に米国のケリー国務長官がモスクワを訪問してプーチン大統領と会談、米ロの根回しを経て満場一致で採択された。しかし中身を見ると、いかに空疎な合意であるかが分かる。

アサド氏(iStock)

 決議のポイントは大きく言って3点。1つは来年1月を目標にアサド政権と反体制派が国連の仲介で直接対話を開始すること、2つ目は半年以内に挙国一致の移行政権樹立、3つ目は1年半以内に新憲法下での自由選挙実施―である。

 だが、最大のポイントはアサド氏に何の言及もない点だろう。

 アサド氏をめぐっては、ロシアとイランが物心両面で支援。米欧やサウジアラビアなどスンニ派諸国はアサド氏と敵対する反体制派を援助、和平協議にはアサド氏の退陣が先決だと主張し、双方は鋭く対立してきた。しかし、今回の決議では、この対立点を棚上げにして、アサド氏については言及しなかった。

 これによって、ロシアとイランは政権の移行プロセスにはアサド氏の役割も含まれると解釈することができ、同氏が選挙に立候補することすらできるとの立場だ。しかし米欧やサウジは、アサド氏が極めて短期間、役割を担うことはあっても、選挙などシリアの将来からは完全に除外される、と考えている。つまりは同床異夢の決議なのだ。

反体制派の当事者は誰なのかの特定も難しい

 この他にも問題は数え切れないほどある。政権と反体制派の直接対話と言っても、反体制派の当事者は誰なのかの特定も難しい。一応は穏健派の統一組織「シリア国民連合」がその中心的な勢力となるが、同組織に参加していない反体制派も多い。そうした反体制派の中には過激派とは言わないまでもイスラム主義者組織が多数存在しており、どの組織に交渉参加を認め、認めないのかの線引きが相当困難だ。

 「ロシアが空爆している80%はアサド氏に敵対している反体制派だ」(ケリー国務長官)ということは、ロシアが反体制派のほとんどをテロリスト集団だと見なしている証でもある。テロリスト集団である限り、この直接対話には加わることはできない。つまりは、交渉当事者選びからつまずく懸念が強いということだ。

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佐々木伸(ささき・しん)

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