WEDGE REPORT

2016年4月20日

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福島の被ばくと子宮頸がんワクチン。弊誌Wedgeが取り上げ続けてきたこの2つのテーマには似通った問題が潜んでいる。福島出身の社会学者、開沼博さんと、医師・ジャーナリストの村中璃子さんが、縦横無尽に語り尽くす。
※本記事は4月20日発売のWedge5月号の記事の一部です。

編集部 被ばくとワクチンをめぐってどのようなことが起きているのか、実態を教えてください。

開沼博(以下、開沼) 福島の惨事に便乗する言説によって、二次被害と呼べる問題が明確に出てきています。

 事故直後の「急性期」には、避難する過程で多くの人が命を落としました。放射線の危険性を過剰に煽る報道によって、農業や漁業に従事する人の中に自殺したり、将来への悲観から廃業したりする人が出ました。

 しかし、状況がある程度落ち着いた「慢性期」の現在もそういった惨事便乗型言説による実害は発生し続けている。避難をし続けて、心身に不調を来たして亡くなった方は2000人を超え、福島で地震・津波で亡くなった約1600人を上回っています。相馬・南相馬で避難経験を持つ人の糖尿病が1.6倍に。福島で小さな子を育てる母親のうつ傾向が高まり、子供の肥満は一時、全国1位になってしまった。

 事故直後のパニックの中で、さまざまな言説が許容される余地はある。しかし、6年目の現在、さまざまなデータが出揃った中、甲状腺がんを残し、現在も今後も内部・外部被ばくによる健康被害の可能性は極めて低いと勝負がついた。過剰避難などの過剰反応を煽り続けることは明らかに有害です。

開沼博(かいぬま・ひろし) 社会学者
東京大学文学部卒、同大学院学際情報学府博士課程在籍。立命館大学衣笠総合研究機構特別招聘准教授などを務める。
Photo: Naonori Kohira

 もはや「辛いですね、不安なんですね」と情緒的な話で終わらせてはいけない。過剰反応に適切な対応を取ってこなかったことの問題を議論すべき時期が来ているのに、「放射能の被害を軽視するのか」「あの当時の過剰反応は否定できない」という、5年前の視点にとどまった議論がまかり通るのは「被害の矮小化」です。これ以上の被害拡大を食い止めなければならない。

村中璃子(以下、村中) 放射線もワクチンも目に見えないから不安になりやすく、誤った情報が拡散しやすいんですよね。重篤な副反応があるかもしれないという疑義が生じた時点で子宮頸がんワクチンの接種推奨をいったん止めたことは良いとして、国内外で安全性に関するエビデンスが蓄積されているにもかかわらず、接種を停止し続ければ、ならなくて済む子宮頸がん患者を生むことになる。

 被害を訴える少女たちに対する、適切かどうかわからない侵襲性の高い治療や代替医療も有害です。自己免疫による脳神経障害であることを前提に、ステロイドパルスという高濃度ステロイド点滴や、血を濾しながら抜いて入れ替える血漿交換という治療法がよくなされますが、患者さんの身体への負荷も経済的負担も大きい。

 究極の姿は、脊髄電極刺激法(SCS)です。これは女の子の身体にメスを入れ、脊髄に金属の電極を埋め込む手術をして痛みを抑える治療ですが、「してもらった感」だけで一時的に良くなる人もいる。一方で症状が悪化する人もおり、また、一時的に良くなった人も必ずと言っていいほどリバウンドするのでやっぱり治らない、治療費がかかるとなって、ワクチンをもっと憎むようになるわけです。

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