ギリシャ問題はEUの本質的な脆さ

ユーロ圏に潜む「タダ乗り」の誘惑


中島厚志 (なかじま・あつし)  経済産業研究所理事長

1952年生まれ。東京都出身。東大法学部卒業後、75年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。パリ興銀社長、日本興業銀行調査部長、みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミストなどを経て現職。著書に『統計で読み解く日本経済 最強の成長戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本の突破口―経済停滞の原因は国民意識にあり』『世界経済連鎖する危機―「金融危機」「世界同時不況」の行方を読む』(東洋経済新報社)など。

中島厚志が読み解く「激動の経済」

混迷の度合いが増す一方の経済情勢。一歩先すら見渡せないこの時代を生き抜くためには、情報の感度、取捨選択能力、読解力が問われます。テレビ東京系「ワールド・ビジネス・サテライト」のコメンテータでもお馴染みでした、中島厚志氏が「激動の経済」を読み解きます。

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足元、ギリシャの財政赤字が問題となっている。ギリシャの財政赤字が注目されているのは、それがユーロ通貨への信頼を揺るがすだけではなく、金融危機後財政赤字を拡大させて経済対策を実施してきたギリシャ以外の主要国の国債価格など金融市場に影響を与えかねないからである。

 現に、ギリシャの財政赤字への懸念は、同じユーロ圏にあって財政赤字が大きい他国にも広がっている。ギリシャを始めとするこれらの国はPIIGS(ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン)と総称されるが、いずれも財政赤字に加えて経常赤字も大きい国であることが特徴となっている。

 もっとも、ギリシャ等の財政赤字が大きく、健全化が容易ではない点は心配としても、金融危機後の景気悪化の中でのギリシャの財政赤字拡大を異常とは言えない。むしろ、ギリシャの前政権が財政赤字(本来GDP比▲12.5%のところ、▲3.7%としてきた)を過小に装うかのような行動を取ってきた点にこそ、今回のギリシャ問題の本質がある。

ユーロ圏の仕組みはただ乗りが可能

【図表】 ユーロ圏収斂基準(マーストリヒト基準)
拡大画像表示

 そもそも、EU加盟国が単一通貨ユーロを導入する場合には、物価や財政赤字などが健全な水準にあることが前提となっている。ユーロ圏各国が一致して安定した通貨価値を維持することが不可欠だからだ。だから、ユーロ圏に参加する際には、物価安定、金利安定、為替相場の安定、健全財政の基準が満たされることが決められている(図表1)。また、ユーロ圏参加後も、単年度の財政赤字額がGDP比3%以内、政府債務残高がGDP比60%以内、を遵守することが決められている。

 ところが、ユーロ圏に参加しているギリシャを始めとするPIIGSの国々の財政赤字は、いずれも基準を大幅に超過している。また、参加後基準ではないのだが、PIIGSのうち幾つかの国については参加時に満たすことが求められている物価安定や金利安定の条件も満たされていない。これがユーロ圏の根本的な問題につながる。

 というのは、いまのユーロ圏の枠組みでは、物価上昇率に差があると、物価上昇率が高い国が得をするからだ。本来であれば、物価が上昇する分、通貨価値が下がって、実質的に国民が稼ぐ価値は変わらないというのが理屈だ。しかし、ユーロ圏内では同じ通貨を使っていて、物価の差は為替相場で調整できない。そうなると、企業にとっては、物価が上がると売り上げが増え、儲かる計算になる。消費者にとっても、物価上昇分補填の意味合いでの賃上げが、実際には所得増につながって購買力の増加をもたらす。

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著者

中島厚志(なかじま・あつし)

経済産業研究所理事長

1952年生まれ。東京都出身。東大法学部卒業後、75年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。パリ興銀社長、日本興業銀行調査部長、みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミストなどを経て現職。著書に『統計で読み解く日本経済 最強の成長戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本の突破口―経済停滞の原因は国民意識にあり』『世界経済連鎖する危機―「金融危機」「世界同時不況」の行方を読む』(東洋経済新報社)など。

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