海野素央の Love Trumps Hate

2017年4月5日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

 今回のテーマは「イバンカ投入のわけ」です。ホワイトハウスは、ドナルド・トランプ米大統領の長女イバンカ氏が大統領補佐官になると発表しました。公職者は自分が務めている政府機関に親族を任命、採用及び昇格をさせてはならないという「反縁故法」の縛りをうけます。ところがホワイトハウスは同法の抜け穴をついて、親族であるにも関わらずイバンカ氏の夫ジャレット・クシュナー大統領上級顧問と同様、同氏を無報酬のスタッフにしたのです。

 イバンカ氏は2016年米大統領選挙後のインタビューで政権スタッフにはならないと語っていましたが、すでにホワイトハウス西棟に執務室を持ち各国首脳との会議に同席しています。本稿では、なぜこのタイミングで同氏が大統領補佐官になったのか、今後どのような役割を担うのかについて述べていきます。

トランプタワー1階にあるイバンカ・トランプショップ(筆者撮影@ニューヨーク)

親族重視のトランプ

 2016年米大統領選挙で筆者は研究の一環としてヒラリー・クリントン陣営に入り、トランプ陣営を現地で観察してきました。同陣営は、選挙期間中、親族を全面に出してまるで家族経営のようでした。今回のイバンカ氏投入により、ホワイトハウスも家族経営の色合いが濃くなります。では、トランプ大統領はなぜこのタイミングで正式にイバンカ氏のホワイトハウス入りを決めたのでしょうか。

 トランプ大統領は上下両院合同本会議で初の演説を行い、米メディアから「大統領らしかった」と高い評価を得ました。だがその喜びも束の間、マイナス要因が顕著になり今ホワイトハウスは揺れ動いています。以下でマイナス要因を挙げてみましょう。

 まず、公聴会でコミー連邦捜査局(FBI)長官は、トランプ大統領がツイッターに投稿したオバマ前大統領のトランプタワー盗聴発言を否定しました。次に、コミー長官は選挙期間中にロシア政府とトランプ陣営が共謀していたのではないかという疑惑に関する捜査を行っていると証言しました。この問題に関しては解雇された安全保障問題担当のマイケル・フリン元大統領補佐官に加えて、ロシア政府及び国営銀行の頭取と接触した娘婿のクシュナー氏にも不信の目が向けられています。

 さらに、オバマ前大統領の医療保険制度改革法(通称オバマケア)に対する代替法案が下院保守強硬派の議員連盟「フリーダム・コーカス」の反対に遭い、撤回を余儀なくされました。トランプ大統領は、ツイッターでフリーダム・コーカスに所属する下院議員を名指しで批判し責任転嫁を図っているのですが、議会との調整役として期待していたマイク・ペンス副大統領及びラインス・プリーバス大統領首席補佐官が党内調整に失敗した事実は看過できません。

 ポール・ライアン下院議長の党内調整能力の欠如も明らかになりました。党内の合意形成を図ることができなかったライアン下院議長に辞任を求めた米フォックスニュースのある番組を観るように、トランプ大統領はツイッターに投稿しています。これらに加えて、今回の代替法案撤回で同大統領に対する忠誠心のない共和党内の下院議員の存在も明白になりました。このような状況の下で不信感を覚えた同大統領は、信頼できる血縁関係にあるイバンカ氏を手元に置きたかったのです。それで同氏の大統領補佐官起用に踏み切ったのです。

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