世界の記述

2017年4月18日

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水谷竹秀 (みずたに・たけひで)

ノンフィクションライター

1975年三重県桑名市生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒業、カメラマンや新聞記者を経てフリーに。2011年『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』(集英社)で開高健ノンフィクション賞受賞。近著に『脱出老人』(小学館)。

 フィリピン中部の有名な観光地、セブ島で3月上旬、若いフィリピン人女性に売春を強要していたとして、韓国人男性9人が人身売買取締法違反の容疑で国家捜査局(NBI)に逮捕された。この男性9人の逮捕時の様子をとらえた映像は動画サイト「ユーチューブ」で公開され、1カ月が経過した4月4日現在、再生回数が約8万5千回に達して話題を集めている。

(写真・iStock)

 NBIなどによると、韓国人男性9人は19歳から21歳のフィリピン人女性たちを勧誘し、1日当たり2千ペソ(約4400円)で韓国人観光客を相手に売春をさせていた疑い。このセックスツーリズムへの志願者はインターネットを通じて募っていたという。

 公開された映像は約20分間。逮捕された私服姿の韓国人9人は全員、NBIの一室で椅子に座ったまま、身元が知られないよう黙って顔を伏せている。撮影関係者のフィリピン人女性は容疑の詳細が書かれた警察調書を読み上げ、地元メディアがNBI捜査員に取材をする様子も収録されている。捜査員のデスクの上には被害者とみられるフィリピン人女性の写真が置かれていた。

 人身売買取締法違反の容疑で逮捕される外国人は、韓国人に限ったことではない。にもかかわらず容疑者の容姿や捜査員とのやり取りまで収録された映像がネット上で公開されるのは極めて異例で、韓国人を標的にした見せしめの可能性は否定できないだろう。

 この映像が公開された2カ月ほど前の今年1月には、フィリピン国内で実業家の韓国人男性(53)が拉致、殺害された事件が発覚し、在比韓国人社会に衝撃が走ったばかりだった。事件は首都マニラから車で約2時間北上したルソン地方パンパンガ州の被害者宅で発生し、韓国人実業家は警官らに車で連れ去られ、絞殺された。フィリピン国家警察所属の警官複数人が関与していたことから、事件は両国の外交問題に発展した。 

 この事件発覚後、韓国人観光客を標的にした恐喝事件が起きていたことも分かり、関与を疑われた現職警官7人が腕立て伏せの罰則を受ける模様がメディアで報じられた。私の取材に応じた在比歴20年以上の韓国人女性(40代)は「フィリピンの警察がまた別の韓国人を標的に復讐するのではないかと不安だ」と心境を吐露していたが、今回の人身売買摘発は、まさにこうした在比韓国人の懸念が高まっている中で起きた。単なる偶然の可能性もあるが、韓国人容疑者をネットでさらし者にした背景には、何らかの意図が感じられる。

  
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