オトナの教養 週末の一冊

2017年5月13日

»著者プロフィール
閉じる

塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

 世界的なベストセラーの上巻です。感想を一言で言えば、「著者の柔軟な発想に圧倒された」ということになります。平易な本ではありませんが、興味深いので、自然と読み進めることができました。以下、下線部分は著書の抜粋等、それ以外は評者の感想です。内容が多岐にわたるため、評者が恣意的にコメントしたい所だけを抜粋等していることをご了承下さい。

第1章 唯一生き延びた人類種

歴史の道筋は、約7万年前の認知革命、約1万2千年前の農業革命、500年前の科学革命が決めた。

 これが、本書(上下巻)の基本認識です。

人類には、ネアンデルタール人等々、いくつかの種がいたが、生き残ったのはホモ・サピエンスだけだった。キツネもブタも、様々な種がいる。人類も同じだったが、他が全て滅んだのだ。
ホモ・サピエンスの方が優れた技術等を持っていたので、ネアンデルタール人等々が食料としている動植物がホモ・サピエンスに食べられてしまったのか、食料争奪の戦争で殺戮されてしまったのかは不明だが。

 ものすごい繁殖力で、同胞たちを滅ぼしながら急激に世界中に展開して行った、ということですね。なぜ優れていたのかは、次章参照。

第2章 虚構が協力を可能にした

ホモ・サピエンスは、存在しない物についての情報を伝達する能力を獲得した。神や国家や会社といった概念の下で、互いを知らない何万人が団結する事が出来るようになった。貨幣という虚構は交易を容易にした。
ホモ・サピエンスとチンパンジーは非常に良く似ているが、何万頭ものチンパンジーを天安門広場やヴァチカン宮殿に集合させる事は不可能であろう。

 神とか国家とか会社とか貨幣とか、「それって何?」とチンパンジーに聞かれたら、相手が理解できるような上手な説明をするのは極めて困難でしょうね。互いに顔を知らない世界中のキリスト教徒が寄付をしたことでヴァチカン宮殿が建てられたのだとすれば、何百人ものホモ・サピエンス集団が結束してネアンデルタール人と闘うことも容易だったと想像できますね。

第3章 狩猟採集民の豊かな暮らし

狩猟採集民は、後世の農夫より快適で実り多い生活をしていたようだ。多様な食料を接種していたので、栄養のバランスは良かったし、一種類が不作でも他の食料で栄養が賄えた。農夫は栄養のバランスが悪かったし、穀物が不作だと飢饉が発生した。
感染症の多くは家畜由来なので、家畜を飼っていない狩猟採集民は感染症にかかりにくかったし、小さな集団で動き回っていたので、感染症が蔓延しなかった。

 そう言われてみれば、狩猟採集民は近代文明以前の農夫よりハッピーだったように思えますね。著者は、現代の肉体労働者や事務員よりも良い暮らしだった、と言っています。さすがにそれはチョッと疑問ですが(笑)。日本でも、縄文時代は豊かだったと聞いたことがあります。

第4章 史上最も危険な種

ホモ・サピエンスが居住区域を拡大すると、そこの生態系を元の面影がないほど変えてしまった。アメリカ大陸もオーストラリアもマダガスカルも。
ホモ・サピエンスの外見が怖そうでないために動物たちが逃げなかったこと、ホモ・サピエンスが焼き畑農業で動物たちの生息地を破壊したこと、等が要因であった。

 ホモ・サピエンスって、他の種から見れば「災難」だったのですね。今でも迷惑がられている事は間違いありませんが(笑)。

第5章 農耕がもたらした繁栄と悲劇

農業革命により、食料が増加した。しかし、人口も増加したので、個々人の生活レベルは低下した。栄養バランスは悪かったし、不作の年は飢饉になったし、何より狩猟採集民と比べて労働時間が長くなった。

 「食料生産が増えると人口が増えるので、途上国は永遠に豊かになれない」と主張している人が学生時代にいました。結構納得していて、「ではなぜ、先進国では豊かになれるのか?」と悩んだ覚えがあります。

 「農業社会では、子供も労働力なので、子供を欲しがるが、工業国は職住接近ではないので子供は労働力ではなく、コストなのだ」という説明で納得したのですが……。

ホモ・サピエンスが小麦等を栽培したのではなく、小麦がホモ・サピエンスを家畜化して自分の遺伝子を世界中に広めさせたのだ。

 何という柔軟な発想でしょう(笑)。非常に興味深いですが……。

ホモ・サピエンスの個体数は飛躍的に増加した。ホモ・サピエンスの遺伝子の勝利ではあったが、個々人は幸せにならなかった。むしろ、人口が増加した事で、「今さら農業をやめて元に戻るわけに行かな」くなったのだ。

 なるほど。昔に戻ることさえ、できなくなってしまったのですね。不可逆的な不幸への道ですね(笑)。

「農業革命は計算違いだった」とは言い切れない。宗教的な神殿が建設され、その後に村落が形成されたことを示唆する遺跡も見つかっているからである。

 神殿を作るために人間が必要で、そのためには食料が必要で、農業が必要だった??? 神が人間を家畜にしたということでしょうか(笑)。

第6章 神話による社会の拡大

米国の独立宣言には「万人は平等に作られており、……」とある。これは生物学的に誤りだが、「そう信じれば安定し、繁栄する社会を築ける」という「想像上の秩序」のために神話を創りだしているのだ。
キリスト教や民主主義、資本主義といった想像上の秩序を人々に信じさせる事が重要だ。ドル、人権、アメリカ合衆国、等についても同様だ。
引力の法則は、誰も信じなくても消滅しないが、想像上の秩序は人々が信じないと崩壊してしまうからだ。

 たしかに、民主主義や資本主義が「正しい」ことを証明するのは難しいけれども、皆がそう信じていますね。なぜ信じるのか? 「信じる者は救われる」と皆が信じているからかも(笑)。

第7章 書記体系の発明

 省略(評者には、あまり重要だと思われないので)。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る