安保激変

2017年6月30日

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小谷哲男 (こたに・てつお)

日本国際問題研究所 主任研究員

1973年生まれ。同志社大学大学院法学研究科博士課程満期退学。ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。専門は日米同盟と海洋安全保障。法政大学非常勤講師及び平和・安全保障研究所・安全保障研究所研究委員を兼務。中公新書より海洋安全保障に関する処女作を出版準備中。

 6月17日午前1時半ごろ、静岡県の伊豆半島沖で米海軍のイージス駆逐艦「フィッツジェラルド」とフィリピン船籍のコンテナ船「ACXクリスタル」が衝突した。イージス艦は右舷側、コンテナ船は船首左側がそれぞれ損傷した。イージス艦の艦長を含めた3人が負傷し、行方不明になっていた乗組員7人については全員の死亡が確認された。衝突でイージス艦の船底付近に4メートルの穴が開き、一気に浸水した居住スペースに7人は取り残された。

衝突で右舷部分が損傷したフィッツジェラルド(写真:ロイター/アフロ)

 イージス艦といえば屈強なイメージがあるが、実際は機動力を重視し、艦の装甲は軽くなっている。特に今回はイージス艦が8000トン、コンテナ船が3万トンと3倍以上の重量差があり、またコンテナ船の球状船首と呼ばれる固い部分がイージス艦の比較的弱い船腹部分に衝突したため、イージス艦に大きな損傷が出たと考えられる。

 また、イージス艦のフェイズドアレイレーダーは高性能であるが、経空脅威に対応するためのものであり、航行に関してはイージス艦も普通の船と同様のレーダーと当直員による目視に頼っている。今回は事故発生が真夜中であったが、夜間に船は右舷に緑、左舷に赤、船尾に白の灯火を掲げるため、当直員は相手の船のライトを見てその船がどのような状況にあるのか判断しなければならない(http://www.mlit.go.jp/jmat/monoshiri/houki/houkinyumon/yorutouka.htm)。

どちらに回避義務があったのか

 これまでにわかっていることを整理してみよう。

 300トン数以上の国際航海する船舶には自動船舶識別装置(AIS)を搭載する義務があり、その情報はインターネットで公開されている。今回の事故についても、コンテナ船のAISデータから事故発生時のコンテナ船の動きがわかっている(https://twitter.com/GregAtkinson_jp/status/875940020514734081?ref_src=twsrc%5Etfw&ref_url=http%3A%2F%2Fwired.jp%2F2017%2F06%2F21%2Finternet-of-ships%2F)。コンテナ船の動きが示すのは、午前1時半頃衝突が発生し、コンテナ船がUターンをして衝突の相手がイージス艦であることを確認し、海上保安庁に通報するまで約1時間かかったことがわかる。なお、イージス艦もAISを搭載しているが、軍艦はその位置を知られるのを避けるため、AISを切って航行することが多い。「フィッツジェラルド」のAISも切られており、航行データは公開されていない。

 その間、イージス艦では、艦の沈没を避けるため、懸命の作業が行われていた。乗組員は、艦長ら負傷者を救助し、仲間が取り残されている可能性があるにもかかわらず浸水区画を閉鎖した。一方、通信手段が損傷を受けたため即座に救援を要請できず、復旧に1時間程度かかった。このため、当初米海軍は事故発生を午前2時半頃と発表したのであろう。

 今回の事故発生場所が日本の領海内であったため、第3管区海上保安本部が業務上過失往来危険容疑で事故の調査をしている。しかし、国際法上軍艦には主権免除の原則があり、この原則に基づく日米地位協定では、公務中の犯罪に関しては米軍が司法権を持つため、米側の同意なしにイージス艦の捜査を行うことはできない。このため、海上保安庁はコンテナ船側を調査しながら、イージス艦については米軍に捜査協力を依頼している。

 2009年に横須賀港内で米イージス艦「ラッセン」がプレジャーボートと接触した事故では、米海軍が日本側にイージス艦の写真撮影のみを許可し、損傷部分の実況見分や艦長らの事情聴取には応じなかった。このため、今回の事故でも米側がどこまで日本側の捜査に協力するかはわからない。しかし、それは米側が事実を隠蔽するということではなく、米海軍は自らすべての真相と責任の所在を解明し、適切な処分を行うことになる。それは、事故の再発を防止するためにも必要な作業である。

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