子どもを狙った悲しい事件が報道されるたび、「どうすれば子どもを守れるのか」とやるせない思いを抱いている人も多いのではないだろうか。狙われる側の防犯能力を高めなければという声がある一方で、「子どもにマンツーマンディフェンスさせるのは酷。ゾーニングに基づくゾーンディフェンスで犯罪者に『あきらめ感』を」と説くのは犯罪学研究の小宮信夫さん。「ゾーンディフェンス」とは、犯罪が起こりやすい環境である、「入りやすく見えにくい場所」を、「入りにくく見えやすい場所」に変えていく取り組みだ。今年4月に刊行された著書『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館)では、小宮さんが訪れた世界92カ国でどのような防犯対策を行っているのかがオールカラーの写真とともに紹介されている。犯罪を行う動機を持った者から犯罪を行う機会を奪うことで子どもを守る「犯罪機会論」について、小宮さんに話を聞いた。
立正大学文学部教授。社会学博士。日本人として初めて英国ケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁「持続可能な安全・安心まちづくりの推進方策に係る調査研究会」座長、東京都「非行防止・犯罪の被害防止教育の内容を考える委員会」座長などを歴任。著書に『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館)、『犯罪は予測できる』(新潮新書)など。公式サイトは「小宮信夫の犯罪学の部屋」
犯罪動機+機会で犯罪が発生する
――日本でよく知られているのは、犯罪者の動機から防犯を考える「犯罪原因論」。世界ではよく知られている「犯罪機会論」が日本では知られていないと小宮先生は仰います。
小宮:海外では犯罪学について「犯罪原因論」(以下、原因論)と「犯罪機会論」(以下、機会論)、それぞれ半数ずつくらい研究者がいます。日本では機会論の研究者は少ないですね。
――動機があるから犯罪が起こる。それではその動機を研究して対策を立てようというのが原因論。機会論は?
小宮:動機があれば直線的に犯罪発生につながると考えている人がほとんどかもしれませんが実際はそうではなくて、動機を持っている人が犯罪の機会に巡り合ったときに犯罪が起こります。それならその機会を減らしていこうというのが機会論です。
よく例に出すのが冬によく起きる静電気です。人の体の中には静電気がある。静電気は、金属類に触ることで火花放電する。金属類に触らなければビリっとなりません。機会論で言うと、体の中の静電気が動機、金属類が機会です。
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機会論の実践の具体例が、『写真でわかる世界の防犯』ではわかりやすく紹介されている。たとえば、公園の遊具は一か所に集め、さりげなく周囲をフェンスで囲むことで「入りにくい場所」にする。また、遊具の近くにベンチを設置しなかったり、逆側に向けて設置したりすることで、「接触や物色」をやりにくくしている。
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――機会論の良いところは何でしょう?
小宮:原因論になってしまうと、個人が防犯するのは非常に難しいです。どういう人に動機があるのかを一生懸命探そうとするわけですから。動機が服装、言葉、表情に表れるかといえばそうとは限りません。けれど機会論の場合、景色を眺めればそこが危ないかどうか、すぐに判断できます。
例えば、大人が子どもに交通安全を教えるとき、「横断歩道のない場所は渡らない」「ここは見通しが悪いから気をつけよう」と、危険な場所・景色を教えますね。「変なドライバーには気をつけましょう」なんて言いません。でも防犯の場合、「不審者に気をつけましょう」をやってしまっている。誰が不審者かなんて、大人でも判断できません。