9月11日、準天頂衛星「みちびき」が種子島宇宙センターから打ち上げられる。
この衛星をアメリカの現行GPSと組み合わせて利用すれば、日本を中心とした東アジア・オセアニア地域の測位情報が、従来の10倍以上の精度によって得られることになり、測位・測量や鉄道・車両・船舶等の運行管理、防災等、社会インフラに貢献する事業への利用が期待される。
何より、これまでアメリカのGPSに100%依存していた測位が、日本が管理する衛星によって行えるようになれば、安全保障や産業振興の上でおおきな意味をもつようになることは必至だ。
今年6月の新成長戦略で、宇宙分野を「利用がドライブする戦略へ」と謳う国は、宇宙利用へ向けてどのような舵きりをするのか。「みちびき」打ち上げから23年度の宇宙予算概算要求まで、日本の宇宙戦略を見ていきたい。
準天頂衛星とは、常に日本の天頂付近に1機の衛星が配備されるよう複数の衛星を静止衛星と同じ周期を持つ複数の軌道面に配置し、位置・速度・時刻の精確な情報をユーザーに提供する衛星システムである。GPS情報と組み合わせれば、ほぼ100%カバーする高精度で位置・速度・時刻を測ることができる。
9月11日に打ち上げられる「みちびき」はその初号機であり、24時間体制で測位を行うのに最低でも3機以上必要だといわれるコンステレーション(軌道に複数機の衛星を投入し、協調させて目的ミッションを果たすこと)構築のための技術・利用実証機となる。
天頂付近に衛星が配備されるため、これまでのようにビルの谷間や山間といった障害物に遮蔽されることなく、より高精度の測位が行える。さらに、搭載している時刻管理系の精確性は特筆すべきもの。1週間を通じて動機誤差が最大2ナノ秒という実験結果を得ており、社会利用が見込めれ ば、インパクトは大きい。
では、「みちびき」が可能にする世界とはどのようなものだろうか。
安全保障、産業振興への貢献
みちびきは、地球の自転を利用することで、日本を中心としたアジア・オセアニア地域上を8の字型に通過するよう設計されている。現在日本では、アメリカのGPSシステムを利用して自国の測位情報を得ているが、準天頂衛星システムが構築されれば、日本を含めたカバー地域の測位情報を自国管理できることになり、その情報は国際公共財としての役割も期待できる。
そもそも準天頂衛星システムは、各国の測位システム確立を背景に開発された。世界では、アメリカのGPS依存型から脱却すべく、自前でシステム構築を始めている国が増えている。
各国の測位衛星構築の状況をみてみると、アメリカのGPSのほか、ロシアのGLONASSは運用中。ヨーロッパのGalileoは、自前のシステム構築を目指そうと2005年から実験を始めていたがはかどらず、今年7月にGPSとの「相互運用の確保」に合意した。また、宇宙開発を急ぐ中国・インドでも測位システム開発が進められており、中国のCOMPASS(北斗)、インドのIRNSSはそれぞれ試験運用、開発の途上にある。
日本の準天頂衛星の特徴について、宇宙航空研究開発機構(JAXA)準天頂衛星システムプロジェクトチーム主任開発員・小暮聡氏は、「みちびきは位置・速度・時刻をユーザーに提供するという点では、他国の測位衛星システムと同じです。大きく違うのは、日本の準天頂衛星システムは“地域システム”であるということ。今の計画上では、GPSと組み合わせて利用することが前提で、GPSの信号が届きにくい場所での利用効率を改善する他、補強情報による精度や信 頼度の改善を目指しており、日本のGPSである準天頂衛星システムだけでは、自立した測位はできない。日米同盟の協力関係もあるし、GPS情報はそもそも無償提供されている。だから、現時点では日本独自の測位システムを作る必要はないけれど、まずは準天頂衛星システムを開発・実証して、必要になれば自前の測位システ ムが構築できるように技術開発は自前でやりましょう、という議論上で進んできたプロジェクト」と話す。
1998年、「クリントン・小渕声明」とも呼ばれる「GPSの利用における日本国政府とアメリカ合衆国政府との間に関する共同声明」に基づいて 設置された日米GPS会合の枠組みのなかで、GPSと準天頂衛星システムとの「共存性」「相互運用性」が確認されており、準天頂衛星は、日米外交協力の上でも、安全保障に資するシステムという位置づけだ。
安全保障だけではなく、民間利用の可能性もある。