チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年9月15日

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富坂 聰 (とみさか・さとし)

ジャーナリスト

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

 海をめぐる大国間の摩擦が先鋭化している。なかでも深刻なステージを迎え始めたとされるのが米中関係だ。

南シナ海を「核心利益」と宣言した中国の意図

 2010年3月に起きた韓国哨戒艦の沈没事件を受けて、黄海で計画された米韓合同軍事演習では、アメリカが空母の派遣を検討。これに対し中国が激しく反発した。また、アメリカは南シナ海でプレゼンスを高めようとする中国を事あるごとに牽制し、中国がこれに反論するという鍔競り合いも続いている。

 こうしたなか、外交部長(外相)より高位にある戴秉国国務委員(=副総理級。外交担当)が、やはり2010年3月にスタインバーグ国務副長官、ベーダー国家安全保障会議アジア上級部長に対し「南シナ海は中国の核心利益」と宣言したことが波紋を呼んだ。日本では「根本利益」とも訳されるが、要するに妥協の余地のない問題と宣言したに等しい。「波紋」とはつまり、アメリカが何と言おうと、中国はこの問題では決して譲らないと突っ撥ねた、と国際社会が受け止めたからだ。

 妥協の余地がない「頑なさ」という点ではこの解釈に間違いはない。だが、この言葉に込めた中国側の意図という意味では若干解釈が違ってくる。というのも最初に中国がアメリカに対して「核心利益」という言葉を持ち出したとき、それは「中米関係が健全に発展するため」の条件として「核心利益」に言及したという事情があるからだ。

真の目的は、アメリカとどう折り合うか

 09年7月、ワシントンで行われた米中戦略経済対話で、やはり戴秉国がそれを口にしている。戴は「中米関係の健全な発展のため」として、「相互理解と相互尊重、そして核心利益の維持」が重要と発言したのだ。中国外交上大きな意味を持つ「核心利益」は、もちろん戴の独断で発せられた言葉ではない。そして当然のこと「何が核心利益か」についての定義もある。現状で指摘されるのは三点。第一に基本制度と国家安全の維持。第二が国家主権と領土の保全。第三が経済社会の安定的な発展である。

 このなかで最も重要で最も分かりにくいのは第一の国家制度と安全の維持だが、これは言うまでもなく共産党政権の維持だ。興味深いのは、いまや国家体制と言ったとき中国が必ずしも社会主義体制の維持とは言わなくなっていることだ。

 つまり、共産党政権の転覆を図るな、領土を侵すな、経済発展を阻害するな、というのが中国の挙げた条件となる。中国がこんな条件を提示した目的はただ一つ。アメリカとうまく「折り合う」ためだ。この視点で見たとき、米中関係の緊張を「覇権の衝突」として捉えることには違和感が拭えない。少なくとも現状は、中国はアメリカとどう折り合えるかを重視していて、むしろ07年8月に中国海軍の高官がキーティング米太平洋軍総司令官に「太平洋を東と西に分けて西半分を中国が支配する」と発言した、その発想こそが中国のアメリカに対するスタンスだ。

⇒次ページ 中国をライバル視していなかったアメリカ

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